2020年12月6日午前2時54分(日本時間)、ウーメラ砂漠にて、再突入カプセルから発信されるビーコンが消感。小惑星サンプルリターンミッション「はやぶさ2」のアンカーを担うカプセルが、地球帰還のゴールテープを切った瞬間でした。

それは恐ろしく難易度の高いリレーでした。リュウグウからの帰路、イオンエンジンチームと軌道計画チームは、一切気を抜かず敢えて「非最適」にすることで頑強性を高めた動力航行軌道を辿り切りました。システムチームは一発勝負のリエントリ運用を精緻で頑強なものにすべく、ノミナル計画の100倍の分量はある緊急対処手順を練り上げました。姿勢系チームと軌道決定チームはリエントリ精密誘導の肝になる「絶対に外乱を発生させない」細心の運用管理に成功しました。リエントリ成功のための軽重を完ぺきに理解したサイエンスチームは、絶妙な隙間を狙って効果的な観測計画を挿入、「はやぶさ2」成果の"積み増し"に余念がありません。リュウグウ到着前にすでに2隊に分割したプロジェクトチームのもう片方である「回収班」は、 JAXAの得意分野とは決して言えないフィールド作業の準備を着々と進め、答えを誰も教えてくれない新型コロナウィルス対策を施して、豪州の地に展開しました。

大気圏突入後、予想と1秒と違わずウーメラの夜空に現れた火球は、整然と美しい光を放ちました。私は、探査機もろとも突入した初号機ほどの華やかさがないことに、むしろ身震いを覚えました。これぞ"Controlled Reentry "の光跡、地球帰還技術の完成形を見た思いでした。「はやぶさ2」は、近傍フェーズを完全成功させた時点で「7つの世界初」を達成しましたが、今回の成功で「地球圏外の天体からのガス状物質のサンプルリターン」「C型小惑星の固体物質のサンプルリターン」の2つの世界初が加わりました。

サンプルリターンは長い長い襷リレーです。一つの襷を繋ぐためにたくさんのサイドストーリーが生まれたのですが、その一端をこの特集でお伝えできればと思います。

私からは小さな蛇足。元地球外物質研究グループ長の圦本尚義先生は、私とカプセルの開封作業を見ながら、「『はやぶさ2』は0.1gのサンプルを採取する設計と君は言っていた。君は工学者だからそれより多く入っていたら残念がらなければ」という主旨のご発言。確かに工学者としてはそうあるべきかな?「はやぶさ2」は、大変"遺憾"ながらその50倍を超える量を持って帰ってきてしまいました。しかしそれがわかった時に圦本先生の顔が緩み切っていたのを私は知っています。真の価値を理解し、キュレーションチームを困らせるほどのサンプルを持ち帰ったプロジェクトチームの皆さん、素晴らしい仕事でした!!