「あかり」は、宇宙の地図をつくるために赤外線で全天の観測を行いました。このうち波長9マイクロメートルと18マイクロメートルで行った観測は、従来の赤外線天文衛星IRASより10倍以上細かい構造を見ることができます。そうすると、これまでは一つの点にしか見えなかった天体が、実はとても面白い構造をしていることが分かります。今回は、そういう天体のお話です。
図6は、はくちょう座Xと呼ばれる領域の「あかり」全天サーベイデータから作成した赤外線画像です。この領域は地球から約3000光年先にあり、現在も非常に活発に星が誕生しています。
今回私たちが着目したのは、白枠で囲った天体(TYC 3159-6-1)で、これを拡大したものが図7左です。この画像では青い点は星を表し、赤で示されるのは絶対温度で約100K(マイナス173℃)に暖められた塵が放つ赤外線です。この画像をよく見ると、真ん中にある星を中心にして赤い放射が広がっていることが分かります。この天体、IRASでは図7右のようにしか見えていませんでした。これも「あかり」の性能があってこそのものです。
星が中心にあり、18マイクロメートルのみで広がった放射をまとうこの天体、いったいその正体は? まずは、どういう天体なら説明できるのかを考えました。一つは、「生まれたばかりの星とそのまわりにある塵」というものです。星は塵とガスの塊の中で誕生することが分かっているので、こういう形に見えてもおかしくはないだろう、ということです。もう一つは、「年老いた星とその星がまき散らした塵」です。年老いた星が塵をまき散らすことも分かっているので、この星が自分の放出した塵のほぼ中心に位置していることも納得がいきます。
そこで、これらの可能性について調べるために、私たちは地上の望遠鏡を使って追観測を行いました。まず中心の星を、ぐんま天文台の口径150cm望遠鏡を使って可視光での分光観測を行いました。星の分光で得られるスペクトルは、表面の化学組成によって異なるので、そこからどういう星かを調べることができます。ところが、予想に反して特徴のあるスペクトルが見られず、若い星か年老いた星かの区別は付きませんでした。次に国立天文台ハワイの「すばる」望遠鏡で波長約10マイクロメートルの分光観測と、国立天文台野辺山の「ミリ波干渉計」による電波の撮像観測を行いました。これは、若い星のまわりに存在するはずの、惑星系のもととなる円盤中の塵からの放射を見ようとしたのですが、残念ながら観測できませんでした。この結果は、星のすぐ近くには塵が少ないことを示すので、年老いた星の可能性の方が大きくなります。しかし最大の問題は、どうやって塵を100Kにまで暖めるか、ということです。というのも、この塵、星から20万天文単位の距離まで広がっているのです。これを説明するには中心の星だけでなく何か別のエネルギー源が必要なのですが、まだその正体はつかめておらず、悩みのタネです。
「あかり」が投げ掛けてきた宇宙の謎、あなたも一緒に考えてみませんか?
(たきた・さとし)