SOLAR-Cが太陽を観測するまで見届けたい

今どのような仕事をされているのですか?

高感度太陽紫外線分光観測衛星SOLAR-Cのプロジェクトチームで、地上系システムを担当しています。地上系システムとは、地上から衛星に指令を送り、衛星から地上に送られてきたデータを受信して処理するものです。

大学では情報工学を学び、大学院では樹木の計測を行うドローンの自律飛行技術の研究開発をしていました。基礎は共通していますが、ドローンと衛星では大きく異なる部分もあります。こうした独自の仕組みによって宇宙と安定して通信できるのかと、担当になった当初は発見の連続でした。

SOLAR-Cは2028年度の打上げを予定しており、まもなく地上試験が始まります。衛星システムと地上系システムをつないで通信試験も行うため、その準備で忙しくなっています。

どのような経緯でSOLAR-Cプロジェクトチームに加わったのですか?

2019年にJAXAに入り、最初の配属は宇宙科学プログラム室でした。宇宙研で進めている科学衛星・探査機などの計画を支援する部署です。どのような計画があり、どのような流れで衛星・探査機が打上げに至るのかなど、プロジェクトに関する業務を俯瞰的に見ることができました。

宇宙科学プログラム室では、審査会の事務局も務めました。科学衛星・探査機計画は、プロジェクト準備審査を通過するとプリプロジェクトとなり、さらにプロジェクト移行審査を通過すると晴れてプロジェクトとなります。ほかにも複数の審査会があり、内部や外部の委員が規定の項目を評価します。事務局の仕事は、審査対象のチームと連携して資料を用意し、審査が円滑に進むように調整することです。審査通過に向けてチームと相談し、問題点の解決につなげることも、重要な役割でした。そこで私が主に担当していたのが、SOLAR-Cです。

いくつもの審査会をチームと共に苦労しながら乗り越えていくうちに、プロジェクト移行審査で関わりを終えるのではなく、SOLAR-Cが太陽を観測する姿も見届けたいという思いが強くなっていきました。上司に相談したところ、プロジェクトチームの発足と同時に異動が実現し、今に至ります。

自動車の電動化やドローンの自律飛行に取り組む

もともと宇宙関係の仕事に就きたいと思っていたのですか?

宇宙への興味は人並みにはありましたが、宇宙の仕事はハードルが高そうだと感じていて、以前は選択肢として考えていませんでした。

小学生のとき、父が新聞で見つけた大学の公開セミナーに参加したことがありました。パソコンを分解して組み立て直すというもので、とても楽しかったのを覚えています。その体験でコンピュータやプログラミングへの興味がいっそう強くなり、ゲームプログラマーになりたいと思っていた時期もありました。

進路はどのように決めたのですか?

中学生のころにNHKの高専ロボコンを見て、高専(高等専門学校)に興味を持ちました。地元の福岡にも高専はありましたが、沖縄によく出張に行っていた父から、沖縄にも高専ができたことを教えてもらいました。体験入学に参加したところ、設備が新しく、校舎や学生寮から海が見えるすばらしい環境が気に入り、沖縄高専の機械システム工学科に進学しました。

卒業後は、九州工業大学情報工学部機械情報工学科の3年次に編入しました。実は、沖縄高専での第一志望は情報学科でした。高専で学んだ機械の知識をさらに深めつつ、情報についても学べるこの学科は、私にぴったりだと感じたのです。

大学時代に特に力を入れたことはありますか?

電気自動車を製作するサークルに所属していました。ガソリン車やバイクからエンジンを外し、モーターとバッテリーを搭載して電動化するのです。車検を通し、公道も走れるようにしました。

趣味では、ラジコンカーにFPGAという半導体チップを搭載して自動運転に挑戦していました。コンテストがあると知り、自分の成果を試そうと出場したこともあります。参加者と技術的な交流ができて、視野も広がりました。

大学院ではドローンの自律飛行について研究開発していたと、おっしゃっていました。これは、どのような技術なのですか?

林業の現場は、急な斜面など足場が悪い場所が多くあります。そうした場所でも安全に樹木の計測ができるようにしたいと考えたのです。そこで、障害物を避けながら森の中を飛行し、樹木の高さや太さ、状態を計測できるドローンの自律飛行の実現を目指しました。

ドローンの自律飛行は、あくまで手段の一つです。不便だと感じることを情報の力で解決したい、という思いが根底にあります。

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「はやぶさ2」との縁。カプセル回収にも参加

なぜJAXAの採用試験を受けようと思ったのですか?

博士課程に進んだものの研究が思うように進まず、就職を考え始めたころ、「はやぶさ2」の小惑星リュウグウへのタッチダウン成功の記者会見を見ました。こんなにも夢に満ちた世界があるのかと、JAXAに興味を持ちました。

採用情報を調べると、障がい者採用があって随時受け付けていることが分かり、応募しました。普段の会話では気付かれないこともありますが、私は生まれつき右耳が聞こえず、左耳には補聴器を付けています。

思い切って応募したものの、実はタイへの留学が決まっていました。そのため、最終面接はタイからオンラインで受けることに。柔軟に対応していただき、とても感謝しています。

「はやぶさ2」がきっかけだったのですね。

はい。「はやぶさ2」とは縁を感じます。

JAXAに入ると、「はやぶさ2」のカプセル回収に参加できる人を募集していることを知りました。サンプルリターンのプロジェクトは数が少なく期間も長いため、カプセル回収に立ち会える機会は貴重です。「はやぶさ」帰還のライブ配信を高専の学生寮で見て感動したことも思い出し、今度は自分の目で見たいと参加を申し出ました。

「はやぶさ2」のカプセル回収班では、どのような役割を担ったのですか?

マリンレーダー運用チームに入りました。マリンレーダーは船舶で使われるレーダーのことで、カプセル追跡用に開発し、落下してくるカプセルを探知し追跡します。

マリンレーダーの設置場所は砂漠のど真ん中で、もちろん電気も通っていません。発電機用のガソリンが切れないように管理したり、現場での環境整備や調整を担当しました。ホテルから設置場所まで、砂漠の中を片道2時間運転するのも私の役割でした。コロナ禍という状況も重なり苦労しましたが、カプセルが光を放ちながら落ちてくる姿を目にしたとき、その感動は言葉になりませんでした。

情報系の強みを活かして

仕事をする上で心がけていることはありますか?

大学院での研究の話でも触れましたが、不便だと思うことを情報の力で解決したいと考えています。できるだけコストをかけずに実現することも大切にしている視点です。

具体的な取り組みがあれば教えてください。

例えば、宇宙科学プログラム室で月1で開催している会議の事務局を担当していたときのことです。この会議は、宇宙研で進めている実験計画の進捗を確認し、施設利用のスケジュールや実験内容を調整する重要な場です。会議に付議する申請が事務局宛にメールで届くのですが、必要な情報がそろっていないことが多く、確認のやり取りが何度も発生して担当者の負担になっていました。

そこで利用申請フォームを作成し、項目を埋めていくと必要な情報がすべてそろうようにしました。これによって担当者の負荷が大幅に減りました。すでに導入しているアプリケーションの機能で実現できたため、費用はゼロです。

「ocha!」という交流サイトも立ち上げました。

「ocha!」とは?

JAXAの職員同士が、事業所や部署を超えて交流できるサイトです。

私がJAXAに入ったのは2019年10月でした。半年もしないうちにコロナ禍となり、対面での交流が難しくなりました。2020年4月入社の方々と一緒に相模原以外の事業所でも新人研修を受ける予定でしたが、それも中止になってしまい、ほかの事業所に知り合いがほとんどできず残念に思っていました。その後、JAXAのDXタスクフォースの活動に参加した際にも、コミュニケーションをどう維持するかが課題として取り上げられました。そこで、JAXA内のつながりを広げることを目指して、「ocha!」というサイトをつくったのです。

具体的には、週に1回、参加メンバーの中からランダムにペアをマッチングし、ペア同士で日程を調整して30分ほど自由に会話するという仕組みです。組み合わせに人が介入すると恣意的だと思われかねないため、コンピュータが無作為に行うようにしました。誰とマッチングするかわからない面白さもあります。これも既存のアプリケーションの機能だけで実装でき、費用はかかっていません。Ocha!の事務局の負担は小さく、無理なく続けられております。現在、参加者が100名を超えています。他事業所との交流が増えて良いとの評価をよくいただいています。

今後どのようなことをやっていきたいとお考えですか?

私自身、宇宙の仕事はハードルが高いと感じていました。しかし実際は、そうではありません。宇宙は身近で挑戦しやすい世界だと、たくさんの人や企業に感じてもらえるような仕組みをつくっていきたいです。情報系の知識や技術も活かせると思います。

寄り道が、仕事も趣味も豊かにする

最近熱中していることはありますか?

生成AIを活用したコーディングにはまっていて、さまざまなアプリケーションをつくっています。文字起こしアプリも自作しました。音声をリアルタイムでテキスト化し、パソコンの画面上に半透明のウィンドウで表示するものです。半透明なので資料を見ながら文字起こしのテキストを確認でき、背景に映っているアプリの操作もできます。画面が小さいノートパソコンでも使いやすいです。

大きな会議室では右側にいる人や遠くに座っている方の発言が聞き取れないことがあり、補助ツールとして使っています。これも、不便だと感じたことを情報の力で解決した例です。聴覚障がいのある職員も使ってくれて、クオリティが高いと言っていただきました。自分の不便を解決するためにつくったものが、ほかの人の役にも立つのはうれしいものです。

ほかにも趣味はありますか?

映画鑑賞も好きです。

最近は『オズの魔法使い』と『ウィキッド』前編・後編を観ました。最初に興味を持ったのは、『ウィキッド』でしたが、調べると『ウィキッド』は『オズの魔法使い』の世界を別の視点から描いた作品だとわかり、先に1939年公開の『オズの魔法使い』を観ることにしました。途中でモノクロからカラーに変わるのに驚かされました。そして最初のカラー映画は何だろうと気になって調べ始め、『ウィキッド』を観るまでに時間がかかってしまいました。

私は、何にでも興味を持ち、いろいろ調べてしまうのです。一見、無駄に思えるかもしれませんが、そうした寄り道が実は重要で、仕事に役立ったり、趣味の幅を広げてくれたりします。

【 ISASニュース 2026年7月号(No.544) 掲載 】(一部加筆)