理工一体ミッション全体を広く見渡す

深宇宙探査技術実証機DESTINY⁺ プロジェクトチームに所属されています。DESTINY⁺ はどのようなミッションで、どのような役割を担当しているのですか?

DESTINY+は、ふたご座流星群の母天体である小惑星フェートンのフライバイ探査を行います。私は、探査機を運用するための地上系システムの整備と、探査機システムを担当しています。予算管理などのマネジメント業務にも携わっています。

DESTINY+は、理工一体ミッションです。将来の低コスト・高頻度な深宇宙探査を実現する工学技術の実証と、地球に有機物をもたらした主要な供給源と考えられるダストの科学観測を行います。私は理学系の出身で、熱や構造など探査機の開発に必要な工学的な専門性は持っていません。また、大学院での研究分野は宇宙地球電磁気学で、小惑星やダストが専門でもありません。だからこそ、プロジェクト全体を広く見渡すことができると思っています。

DESTINY⁺ の打上げ予定は?

2028年度にH3ロケットで打上げ、2030年度にフェートンのフライバイ探査を行う計画です。

元の計画では、イプシロンSロケットによって2025年度の打上げを目指していました。まず地球周回軌道に投入され、イオンエンジンを稼働させて地球を周回しながら高度を上げていきます。その後、月の重力を利用して軌道変更と加速を行ってフェートンに向かう予定でした。しかし、イプシロンSの開発状況を踏まえ、打上げロケットの見直しが必要になったのです。打上げロケットの検討は二転三転し、なかなか先が見えない期間もありました。

最終的には、H3ロケットによってESAの小惑星探査機RAMSESとの相乗りで打ち上げられることになりました。RAMSESは、地球に接近する小惑星アポフィスの探査を目的としていて、惑星間軌道に投入されます。相乗りするDESTINY+も、同じく惑星間軌道に投入されます。

地球周回軌道上でイオンエンジンを稼働させて高度を上げていって惑星間空間へ出るというのは、DESTINY+の主要な工学実証でしたが、それがなくなってしまいました。それでもチームの士気が下がることはありません。フェートンに向かう前にアポフィスを探査することも決まりました。打上げロケット変更に伴ってさまざまな対応が必要ですが、チーム一丸となって取り組んでいます。

DESTINY⁺ のどういう点に魅力を感じていますか?

DESTINY+は、私にとって2つ目の宇宙科学プロジェクトです。1つ目は、2016年に打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」でした。「あらせ」は地球を周回する衛星で、このときもたくさんの新しい経験をしました。DESTINY+は地球を離れ、小惑星フェートンを目指して惑星間空間を飛行します。深宇宙探査機の開発・運用は私にとって未知の世界なので、また新しい経験ができると期待しています。

それに、小惑星と聞くだけでワクワクします。しかもDESTINY+は、フライバイ探査といって、フェートンの近くを秒速約36kmという高速で通過しながら2台のカメラでその表面を観察するのです。本当に一瞬です。その一瞬を逃さないために、しっかり準備を進めていきます。

宇宙科学プロジェクトに携わりたかった

最初の宇宙科学プロジェクトの「あらせ」には、どのような経緯で参加したのですか?

JAXAに入って最初の配属先は筑波で、その後、宇宙研のプロジェクトを支援する宇宙科学プログラムオフィスに異動しました。そこで担当したのが、後に「あらせ」と名付けられるERGプロジェクトの立ち上げでした。実は、JAXAの採用面接のときから「宇宙科学プロジェクトをやりたい」と言い続けていました。宇宙科学プログラムオフィスの一員としてERGの立ち上げを支援する中でも、その思いがあふれ出ていたのでしょう。ERGのプロジェクトマネージャが「ウェルカムだよ」と声を掛けてくれ、上長も後押しをしてくれたのです。それで、宇宙科学プログラムオフィスの業務と並行して、ERGプロジェクトチームに入ってその開発にも携わることになりました。

「あらせ」は、地球を取り囲む放射線帯の高エネルギー粒子が生まれる過程を直接観測する探査機です。私は大学院で宇宙地球電磁気学を学んでいたので、観測対象には馴染みがありました。しかし衛星の開発は初めてで、何をどう進めたらいいのかまったく分からない、まさにゼロからのスタートでした。衛星システムの取りまとめを担当し、数々の試験にも立ち会い、たくさん勉強させてもらいました。その経験が、DESTINY+に生きています。

宇宙科学プロジェクトに携わりたいと思うようになったきっかけを教えてください。

大学院で所属していた研究室の先生が、月周回衛星「かぐや」に搭載された宇宙プラズマを計測する機器の開発に携わっていました。その関係もあって、「かぐや」の打上げを中継で見る機会がありました。宇宙開発や宇宙科学プロジェクトを意識したのは、そのときが初めてでした。ロケットの打上げというのはこんなにすごいものなのかと感動し、宇宙科学プロジェクトに携わりたいと思うようになったのです。

また、今はなくなりましたが、私の研究室では当時、人工衛星の運用当番がありました。私も宇宙研に行き、磁気圏尾部観測衛星GEOTAILの運用を1週間ずつ2回ほど担当しました。衛星にコマンドを送ったりテレメトリを確認したりするときには、専門の担当者が内容を1つ1つ読み上げながら操作していきます。今なら理解できるのですが、当時は呪文を聞いているようで、意味はさっぱり分かりませんでした。それでも管制室に入って衛星運用の現場を体験したことで、宇宙科学プロジェクトに携わりたいという気持ちが大きくなり、そのためにJAXAに入りたい、と思うようになりました。

一人でコツコツやるより、周りの人とコミュニケーションを取りながらやる方が向いていると、自分でも感じていました。それもあって、修士課程修了後、JAXAで働く道を選びました。

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吹奏楽団へ飛び込んで

子どものころは、どんなことに興味がありましたか?

宇宙が好きでした。きっかけは、小学1年生のときに買ってもらった星の本です。そこに「星にも一生がある」と書かれていたのです。星も生まれて死んでいくということが、とても心に響きました。それからは星の本や宇宙図鑑をたくさん読み、星の研究をしたいと思うようになりました。その思いはずっと変わらず、大学は宇宙や天文を学べるところを選びました。

大学では、望んでいたことが学べましたか?

実は、大学に入ると、吹奏楽団の活動に夢中になり、勉強はおろそかに(笑)。

中学や高校でも吹奏楽部に入っていたのですか?

いいえ、高校時代は地学部でした。学校に泊まって流星群を観察したり、鉱物を採取しに行ったりしていました。

高校時代、電車通学の乗換駅で、何度かサックスアンサンブルの路上ライブに出会いました。その演奏に感動し、「大学に入ったら絶対サックスをやる」と決めていたのです。小さいころにピアノを習っていましたが、サックスの経験はありません。大学の吹奏楽団は経験者が多かったですが、それでも迷わず飛び込みました。

吹奏楽の魅力は、どのようなところにありますか?

サックスを一人で吹くのも楽しいですが、サックス同士やほかの楽器、吹奏楽団全体など、人と合わせて演奏するのが好きです。それぞれが出している音はまったく違いますが、合わさることで1つの曲ができあがっていきます。それがとても楽しいのです。

宇宙科学プロジェクトにも通じるところがありますね。

はい。宇宙科学プロジェクトも、それぞれが担う役割ややっていることは違いますが、みんなで取り組むことで1つのプロジェクトが形になっていきます。そのときに大事なのが、コミュニケーションだと思うのです。たくさんの人とつながりをつくり、顔を見てたくさん話すことを心がけています。

面白いと思ったら、飛び込んでいこう!

宇宙地球電磁気学の研究室を選んだのはなぜですか?

研究室を決めるにあたって、いろいろな分野を調べる中で、宇宙天気が面白そうだと思ったのです。実は、なぜそう思ったのかよく覚えていないのですが......。でも、その研究室を選んだことで、結果的に今のJAXAでの仕事につながったのですから、よかったと思っています。

面白いと思うことには、ためらわず飛び込んでいかれますね。

自分ではそれほど活発な性格だとは思わないのですが、確かに、やりたいと思ったら行動に移すことが多かったですね。

振り返ると、「あらせ」のとき、衛星の開発について何も知らない状態で、よく飛び込んだなと思います。がむしゃらに、全力で取り組んでいました。多少は経験を積み、年も重ねた今は、視野を広く持ち、落ち着いて取り組めるようになったのではないかと思います。でも、昔のがむしゃらさも少し取り戻したいですね。これからも、面白いと思うことには臆せず挑戦していきたいです。

今後はどのようなことに取り組みたいと考えていますか?

少なくとも2030年度のフェートンのフライバイ探査までは、DESTINY+に携わっていたいです。その後も、宇宙科学ミッションに関わり続けたいと思っています。自分自身が直接、研究をしたり、探査機を開発したりするわけではありませんが、宇宙科学の発展に少しでも役立つことができればうれしいです。

最近もサックスを演奏しているのですか?

普段は、なかなか演奏できません。昨年、学生時代の吹奏楽団の友人たちと子ども連れで、楽器を演奏できる施設に泊まりがけで行きました。それぞれ楽器を持ってきてみんなで演奏し、子どもたちもマラカスで加わって、とても楽しい時間を過ごしました。やはり、仲間と一緒に曲をつくりあげていくのは格別ですね。次回の集まりが楽しみです。

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【 ISASニュース 2026年3月号(No.540) 掲載 】(一部加筆)