プロジェクトとC-SODAをつなぐ調整役
現在、科学衛星運用・データ利用ユニットに所属されています。
長い名前で、舌をかみそうになりますよね。C-SODAという略称で呼ばれています。C-SODAは、宇宙を航行する衛星や探査機に指令を送り、観測データを下ろし、そのデータを利用するために必要な装置やシステムの開発・維持管理を行う部署です。
私はプロジェクト窓口として、プロジェクトが何をやりたいかを聞き、それを実現するために必要な装置やシステムを提案するなど、プロジェクトとC-SODAをつなぐ調整役を担っています。地球を周回しながら定期的に大量のデータを地上に送信する近地球衛星もあれば、「はやぶさ2」のように目的天体までの航行期間が長く、到着や着陸のタイミングで運用が集中する探査機もあります。プロジェクトの特性に応じて、きめ細やかに対応しています。
どのプロジェクトを担当しているのですか?
アイデア段階のものから、検討中、開発中、運用中、そして運用が終了して現在はデータ利用のみのものまで、宇宙研のすべての衛星と探査機です。プロジェクト窓口は4人いて、1人に何かあっても互いにカバーしあえるよう担当を分けずに全員で情報を共有するという体制を取っているのです。とても大変です。ただ、私は子どものころから宇宙に関わる仕事がしたいと思っていました。また、大学院時代を宇宙研で過ごす中で、さまざまな種類や段階のプロジェクトが同時に動いていることに驚き、それが宇宙研の魅力だと感じていました。今、その宇宙研のプロジェクトのすべてに関わることができているのですから、とても楽しいです。
多種多様なプロジェクトをうまく調整するコツはありますか?
プロジェクト側とC-SODA側では立場が違いますが、「プロジェクトを成功させたい」という思いは同じです。成功のためにC-SODAとして何ができるのか、何をすべきかを意識することで、調整がうまく進むと感じています。
私は、前に立ってプロジェクトを引っ張るより、裏方として支える方が好きなので、プロジェクト窓口の仕事は、自分に合っていると思います。
SOLAR-Cプロジェクトを併任されています。どのようなことを担当しているのですか?
SOLAR-Cは、2028年度の打上げを目指している次期太陽観測衛星です。2024年3月にプロジェクトチームが発足したタイミングで、地上系の担当として参加しました。
C-SODAの装置やシステムに通じていることが、SOLAR-Cの地上系を考える上でとても役立っています。一方で、プロジェクトでの経験もC-SODAでの活動に役立っています。例えば、C-SODAとしては問題ないと考えていたことも、プロジェクト側からすると少し不便に感じられる場合があります。プロジェクト側の視点も意識して、窓口での対応やC-SODAの装置・システムの改善に取り組んでいきたいと考えています。
「だいち」の名付け親の一人です
宇宙に関わる仕事がしたいと思うようになったきっかけは?
家の近くにプラネタリウムがあり、小さいころからよく連れて行ってもらっていました。最初は、解説員さんが語る神話が好きでした。次第に星にも興味を持ち、やがて宇宙全般が好きになり、宇宙に関わる仕事をしたいと思うようになりました。
宇宙に関わる仕事といえば、まず思い浮かぶのが宇宙飛行士でしょう。私も宇宙飛行士になりたいと思ったことがあります。しかし、当時は現在より身長制限が厳しく、自分は応募条件を満たせそうにありませんでした。宇宙に関わる仕事には就けないかもしれないと残念に思ったのを、覚えています。
それでも宇宙に関わる仕事をあきらめなかったのですね。
中学生のとき、JAXAの陸域観測技術衛星の愛称を募集していることを知りました。これまでの衛星や探査機の愛称の傾向を調べ、ひらがなで3文字か4文字、観測対象に関連する名前がよいのではないかと考え、応募しました。すると、私が応募した「だいち」が採用されたのです。とてもうれしくて、送っていただいた賞状は今でも大切に保管しています。
「だいち」の名付け親の一人になれたことで、宇宙は遠い世界ではなく、自分の気持ちと努力次第で関わることができるのだと気づきました。このころには、宇宙飛行士以外にも宇宙に関わるさまざまな仕事があることを知っていました。そして、小さいころからものづくりが好きだったこともあり、エンジニアとして宇宙に関わる道を目指そうと、大学では工学部を選びました。
電気は宇宙で不可欠な技術。電気系は狙い目!?
工学部で専攻に電気系工学を選んだのはなぜですか?
専攻を選ぶとき、まず航空宇宙工学を考えました。でも、私は数学が苦手で、算数のころから仲良くなれませんでした。航空宇宙工学専攻に進んだら、流体力学でつまずくのが目に見えています。
悩んでいたとき、電気系工学専攻の説明会で「電気は宇宙で不可欠な技術で、宇宙に関わりたいなら、電気系は狙い目ですよ」と聞き、電気系工学専攻に進みました。
大学時代はどのような研究に取り組まれたのですか?
関節の数などが異なるヒューマノイドロボット間で、自律的に同じ動作を学習させるためのアルゴリズム研究に取り組みました。動作を単に模倣させるだけでなく、プログラムに生物の進化の仕組みを応用した遺伝的アルゴリズムを取り入れることで、ロボットの構造に合わせて安定して倒れない動作を学習させることに成功しました。
プログラミングは大学に入って始めたのですが、すぐに好きになりました。プログラミングは、私にとっては外国語に似ています。文法と単語をしっかり覚えて書けば、コンピュータに伝わります。それが分かりやすくて楽しかったのです。また、以前からロボットが好きだったことから、この研究テーマを選びました。
宇宙を意識していたのですか?
いいえ。宇宙分野に取り組むのは大学院に進んでからでも遅くはないし、学部時代にはあえて宇宙以外の研究テーマに挑戦するのもよいのではないかと、後に指導教官となる先生からアドバイスを受けていました。視野を広げることが大切だという趣旨だったのでしょう。
大学院ではどのような研究を?
宇宙研で、月探査機の着陸地点を選定するアルゴリズム研究に取り組みました。月の南極には氷が存在するとされ、重要な探査対象です。ただし、氷があるとされるのは、太陽光が届かないクレーターの底です。そのような場所への着陸は非常に難しく、電力の確保も困難です。一方で、平坦で着陸しやすく電力を確保できるような場所には、氷がありません。このような複雑な条件を考慮して最適な着陸地点を選定するプログラムには、遺伝的アルゴリズムが有効だと考えました。学部時代のロボットの研究が、結果的に宇宙につながっています。
宇宙研では月の氷を探査する月極域探査機LUPEX(ルペックス)の計画が進められています。私の着陸地点選定研究が少しでも何かの役に立っているとしたらうれしいですし、C-SODAのプロジェクト窓口として関わっていられることにも喜びを感じています。
予想外の配属先、電動航空機チームで学んだこと
2016年にJAXAに入り、最初の配属先はどちらでしたか?
4カ月間の研修後の本配属は、東京都調布にある航空技術部門のエミッションフリー航空機技術チームでした。「えっ、調布? 航空ですか?」と思わず聞き返してしまいました。それまで航空分野とは無縁でした。電動航空機の燃費性能を解析するプログラムの開発を担当したのですが、不安でいっぱいでした。
電動航空機は、二酸化炭素の排出が少なく、騒音や振動も抑えられることから、未来の航空技術として注目されています。私が着任する前に小型機での有人飛行を達成し、次の段階として大型化に向けた研究開発が行われていました。小さいチームのため人手が足りず、当初の担当業務だけをしているわけにもいきません。すぐに、機体の制御性能実験にも参加することになりました。しかし、私には航空分野と無関係な学生実験の経験しかありません。分からないこと、うまくいかないことばかりで、最初は途方に暮れました。
実験とプログラミングでは、どのような違いがあるのでしょうか?
プログラミングと実験とでは、進め方が大きく異なります。プログラミングは、書いて、動かして、バグを見つけて修正して、という作業を繰り返します。修正を前提に、まずは書いて動かしてみるのです。航空機の実験は風洞という特殊な設備で行われるため、実験機会はとても貴重で、失敗しても簡単にはやり直せません。綿密な準備はもちろんのこと、取得したデータから随時実験計画を修正していく必要があります。
右も左も分からない状態からのスタートでしたが、実験を行ってデータを取得し、これを解析して制御シミュレータを作成しました。シミュレータを用いて得られたデータをもとに制御性能の向上を確認し、特許申請や論文発表まで、やり遂げることができました。今後の糧となる、貴重な経験でした。

展示説明員。一番楽しかったアルバイト
相模原キャンパス特別公開の実行委員をされています。
大学院時代、私の研究室も特別公開に出展していました。来場者と接するのが楽しく、特別公開が大好きだったので、宇宙研に異動した2021年から実行委員になりました。
「宇宙は面白い」と多くの人に伝えたいのです。大学院生のとき、週末は宇宙研にあった展示スペースの説明員をしていました。大好きな宇宙の話を一日中していられて、話を聞いてくださった方々が見せる笑顔がうれしくて、これが一番楽しいアルバイトでした。
私が実行委員となった最初の年の特別公開は、コロナ禍の影響でオンラインのみの開催となり、私は出展者との調整を担当しました。どのような構成や演出にすればオンラインでもプロジェクトの魅力や意義を十分に伝えられるかを、出展者の要望を聞きながら、ぎりぎりまで調整を重ねました。視聴者や出展者の皆さんが楽しんでいる様子が伝わってきたときは、私自身も楽しくなりました。
それは、私が今C-SODAでやっているプロジェクト窓口の仕事と似ています。自分は裏方として支えることが好きなのだとはっきり自覚したのは、特別公開の実行委員の活動でした。
一般の人に話をするとき気をつけていることはありますか?
私は数学が苦手ですが、歴史は好きです。少なくとも私の場合、その違いにはエピソードがあるかないかに関係していると思っています。解の公式にはまだエピソードを見出せていないのですが、歴史には多くの登場人物がいて、さまざまなエピソードがあるため、記憶に残りやすいと感じるのです。
そのため、事実を言うだけでなく、プロジェクトが必要とされる背景や、関わった人たちが何を考え、どんな問題が発生し、どのように解決していったかといったエピソードを交えて話すようにしています。
知らない世界に触れることが楽しい
趣味は?
読書です。子どものころは、図書館に通ったり、読書家の父の本を借りて読んだりしていました。父はSFやミステリーが好きで、私もその影響を受けています。そうした読書傾向が、宇宙好きに拍車をかけたのかもしれません。
旅行も好きです。読書も同じですが、知らない世界やものに触れることが楽しいのです。宇宙には、まだ知らないことがたくさん残っています。だからこそ、私は宇宙に強く惹かれるのでしょう。
【 ISASニュース 2025年11月号(No.536) 掲載 】(一部加筆)

