衛星からのデータを保管し、時計を合わせる

2023年4月にJAXAに入り、今はどのような仕事をされているのですか?

科学衛星運用・データ利用ユニットに所属し、SIRIUSシステムと時刻校正システムを担当しています。SIRIUSでは、衛星や探査機から送られてくるデータを登録して保管します。衛星の打上げ前には登録項目の追加などシステムの改修が必要かどうかプロジェクトと打ち合せをして、改修作業を行うメーカーとの契約書類をつくったりもしています。

衛星はそれぞれ固有の時計を持っています。時刻校正システムは、地球周回以外の衛星・探査機に搭載されている時計の時刻を、協定世界時に変換するものです。

時刻校正は、衛星の運用にも欠かせません。例えば2024 年1月に月面に着陸したSLIMでは、ピンポイント着陸を実現するために高精度の時刻校正が必要でした。私は時刻校正に要求される精度が厳しいことを知っているので、着陸のライブ配信を緊張しながら見ていました。

高校卒業後、ワーキング・ホリデーで日本へ

出身は?子どものころは、どういうことに興味がありましたか?

ドイツ出身です。学校の勉強では、数学、そして物理学が好きでした。物理学を使うとさまざまな現象を説明できると知り、興味を持ったのです。将来どんな仕事をしたいかを書く宿題が出たことがありました。物理学に関連する仕事を調べていたら、「宇宙物理学」という言葉を見つけて、これだ!と思ったのを覚えています。宇宙は、さまざまな現象の中でも説明が難しそうですよね。だからこそ面白いと思い、宇宙物理学を学んで、それに関連する仕事をしたいと考えるようになりました。

目指したとおり宇宙物理学を学べる大学に進んだのですか?

いくつかの大学のオープンデイに参加し、宇宙物理学を学べ、行きたいと思える大学を見つけました。無事に高校卒業証明書も得て、ドイツで大学に進学できたのですが、すぐ入学しないで、ワーキング・ホリデーで日本に行くことにしました。

14歳のとき、偶然YouTubeで見た日本のバンドを大好きになったのです。ONE OK ROCKです。ロックが好きでいろいろなバンドの曲を聞いていましたが、そのバンドはそれまで聞いていた音楽とまったく違いました。その曲の言葉を理解したくて、日本語を勉強しました。ひらがなやカタカナは少し読めるようになったのですが、話せるようにはなれなくて、もう日本に行くしかない!と思ったのです。

沖縄のビーチホテルのレストランで4カ月、白馬のスキー場で3カ月働いた後、旅行しました。日本語は日常生活には困らないくらい話せるようになり、念願のライブにも行き、とっても充実した1年間でした。

ワーキング・ホリデーを終えた後は?

志望していたハイデルベルグ大学に入学し、物理学・天文学を学び、その後、修士課程で星の生成過程について研究しました。また日本に行きたかったのですが、忙しすぎて無理でした。でも調べてみると、修士課程で日本の大学に留学できることが分かったのです。そして、ハイデルベルグ大学と関係が深い北海道大学の観測天文学研究室に2019年10月から1年間所属して、研究を行いました。

科学衛星運用・データ利用ユニット Miriam Sawczuck

日本で宇宙の仕事といえばJAXA!

修士課程を修了後、JAXAに就職したのですね。

博士課程に進まなかったのは、新型コロナウイルス感染症の影響が大きかったと思います。日本留学が終わるころには、感染症の流行がピークを迎えており、ドイツに帰ると、授業はすべてオンラインになっていました。修士論文は、家で書き上げました。教授の指導もオンラインでした。いつも1人。その状況がいつ終わるか分からなかったので、1人というのはつらい、やりたくないと、博士課程へ進むことを諦めました。そして、日本で就職できないかと考えたのです。

私は地上の望遠鏡を使って研究していました。星がつくられるときのガスの流れを観測するのですが、望遠鏡では詳しくは分かりません。そのため宇宙から直接観測する天文衛星に興味を持ち始めました。そして、日本で宇宙の仕事といえばJAXAだ、と考えたのです。まず、JAXAのウェブサイトの英語ページで採用情報を見ました。しかし研究職の募集しかなく、博士号を持たない私には応募資格がありません。そこで日本語ページの採用情報を見て、新卒採用の技術系職員に応募したのです。

今後、どのようなことをやっていきたいと考えていますか?

採用面接では、衛星や探査機に関わる仕事をしたい、という希望を出しました。今の仕事に慣れたら、少しずつでも衛星や探査機が観測したデータの解析に関わっていきたいと思っています。専門ではありませんが、ハードウェアにも関心があります。これからJAXAでいろいろなものを見て、知って、いろいろなことをやっていきたいと思っています。

【 ISASニュース 2024年5月号(No.518) 掲載 】