2025年、水星到着。「みお」との通信開始

国際水星探査計画BepiColomboで地上系システムを担当されているそうですね。

地上系システムとは、宇宙を飛行している衛星や探査機と我々をつなぐものです。具体的には、地上から探査機へコマンドと呼ばれる指令を送り、テレメトリと呼ばれる探査機からのデータを受け取って処理するインターフェースを指します。どういうコマンドとテレメトリをいつどのくらい送りたいのか、どのように処理したいのかは、衛星・探査機ごとに違います。プロジェクトのメンバーと打ち合せを重ね、そのプロジェクトに合った地上系システムを構築し運用する、というのが私の役割です。

BepiColomboの地上系システムの特徴は?

BepiColomboでは、日本が開発した水星磁気圏探査機「みお」(MMO)と欧州が開発した水星表面探査機(MPO)が、水星を周回しながら観測を行います。2つの探査機が結合した状態で2018年10月に打ち上げられました。7年かけて水星に到着するまで地上との通信はMPOが担い、その通信にはJAXAの深宇宙探査用アンテナも使います。受け取ったテレメトリはドイツにあるESOC(欧州宇宙運用センター)に流すのですが、そうした運用はJAXAにとって初めてのことです。試験や訓練を重ねました。計画当初には予定していなかった地上局新設などもあり、未だにやるべきことが残っています。

水星到着は2025年12月の予定です。

水星の周回軌道に到着して「みお」が分離されると、「みお」自身と地上との通信が始まります。「みお」は、回転しながら水星の磁場や電場を観測します。回転してもアンテナは地球に同じ面を向けるように制御されるのですが、分離直後は信号が途切れ途切れにしか届きません。手旗信号で通信するようなもので、現在も運用シミュレータを用いた訓練と検証を繰り返しています。

20以上の衛星・探査機の地上系システムや軌道力学業務に携わってきたと伺いました。この仕事で大切なことは?

あきらめないことです。できないではなく、できるようにする。訓練を重ねるのも1つの方法です。人の努力では解決できないなら、システムを改良する、というように、あらゆる手を尽くします。やったことがあるならば、同じようにやればできるでしょう。しかしJAXAでやるのは世界初のことばかりですから、これまでと同じようにやってもできません。できないとあきらめてしまわずに、できるようにする、というのが重要です。そのためには、専門や経験や立場が異なるいろいろな人たちが力を合わせ、早め早めに手を打つことも大事になってきます。

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制度の改善にも取り組む

大学院の博士前期課程は、宇宙研で受託院生としてX線天文衛星「ぎんが」の観測データを使った研究を行い、修了後NASDAに。

宇宙に関わる仕事をしたいと思い、就職先としてNASDAを考えたのですが、当時NASDAでは技術系・事務系共に修士以上の女性の採用枠がありませんでした。駄目で元々と問い合わせてみると、今年から採用枠を設けると言うのです。タイミングと運がよかったな、と思います。

初めての技術系修士の女性職員ということで、苦労されたことも多かったのでは?

いくつもありますが、衛星・探査機の打上げのときに組織される追跡管制隊に加わるたびに困ったのが子どもの預け先でした。追跡管制隊は24時間体制で日曜祝日にも当番が回ってくるため、事業所内に保育園を設置してほしいと訴えました。実現まで約10年かかったものの、2012年、筑波宇宙センターに「ほしの子保育園」が開設されました。自分の子どもには間に合いませんでしたし、24時間保育は実現できていませんが、困るのは私だけでも女性だけでもないと思って、取り組みました。

現在もワーク・ライフ変革推進室の協力員をされています。さまざまな制度を整えていくためには、どのようなことが必要だとお考えですか。

困っているらしい、といった伝聞では、制度を変えられません。アンケートを取って数字を出したり、客観的な事実を示して交渉することが必要だと思います。そして、制度を変えるには時間がかかります。あきらめないことも必要です。

ご自身の性格は?

しつこい。それは欠点なのかもしれませんが、しつこいを裏返すと、あきらめないです。それは長所でしょう。

今後やりたいことは?

まずは2年後の水星到着までに「みお」の地上系システムを完成させ、分離後の運用を成功させることです。その後は、これまで培ってきた地上系システムに関する技術や知見をまとめ、これからのプロジェクトが地上系システムを楽に構築できるようにしたいと思っています。

【 ISASニュース 2024年1月号(No.514) 掲載 】