DARTSウェブサイトをリニューアル

宣伝したいことがあるそうですね。

はい。2023年4月に宇宙科学のデータアーカイブDARTS(ダーツ)のウェブサイト(https://darts.jaxa.jp/)をリニューアルしました!(ISASニュース 6月号 表紙参照) 一般の人向けのトップページをつくり、科学衛星のデータを簡単に閲覧できるコンテンツをピックアップして紹介しているので、ぜひアクセスしていただきたいのです。

DARTSとは? また、なぜリニューアルを?

衛星が観測したデータは地上のアンテナに送られてきます。アンテナが受信したデータは0と1が並んでいるだけで人には理解できないので、さまざまな処理を行って画像などに変換します。そのデータを保管・公開しているのがDARTSです。

これまで世界中の研究者がDARTSのデータを使い、さまざまな科学的な成果を上げてきました。しかし、DARTSは研究者向けにつくられたものなので、一般の人が以前のウェブサイトにアクセスしても、ほぼ使えませんでした。一方で、宇宙研の研究活動に興味を持ってくださっている人は多く、最近では宇宙ビジネスも盛んになってきて、衛星が取得したデータにも関心が寄せられています。そこで、一般の人にもDARTSのデータを使ってもらえるようにウェブサイトを整備しよう、となったのです。

おすすめのコンテンツは?

まずは「ギャラリー」です。きれいな画像などを選んで紹介しています。「太陽カレンダー」もおすすめです。太陽の画像が取得日ごとにカレンダー形式で表示されているので、誕生日や記念日の太陽画像を選んで見ることができます。「JUDO2」は、さまざまな天文衛星が取得した画像を天球に貼り付けて表示しているツールです。Googleマップの天球版といえるもので、宇宙の探検を楽しんでいただけます。宇宙研のデータポリシーに従っていただく必要がありますが、原則としてDARTSのデータは無償で利用できます。営利目的でもいい。加工してもいい。ぜひ皆さんのアイデアで、DARTSのデータを自由に使ってください。

物理の先生と出会って

大学院生のときは宇宙研でX線天文学の研究をしていたそうですね。

高校生のときに通っていた塾の物理の先生の教え方がとても上手で、問題がどんどん解けていくのが楽しくて、物理が大好きになりました。しかも、日常の現象を物理と絡めて考えるようになったのです。ピザ生地を回して伸ばしているのを見ると、どのくらいの遠心力がかかっているのだろうか、走る電車の中を飛んでいる虫を見ると、あの虫は慣性の法則が成り立っているのだろうか、と。そして、大学では物理、しかも子どものころから好きだった宇宙を学ぼうと考えるようになりました。高校に進学したころには小学校の先生になろうと決めていたのですが。

宇宙を学ぼうと大学に入ったものの、卒業研究は原子核物理学を選びました。このときもまた、いいなと思う先生がいたのです。X線天文学は大学院からです。宇宙研に見学に来たとき、ちょうどX線天文衛星「すざく」に載せる望遠鏡の地上較正試験を行っているところで、作業している大学院生の皆さんが生き生きして楽しそうなのを見て、これだ! と決めました。

人の生活に関わる仕事をしたい

なぜJAXAに?

X線天文学の研究は、とても楽しくて好きでした。人類にとって大切なことだとも思います。しかし、人の生活からは遠い。もっと人の生活に関わる仕事、役に立つ仕事をしたいという思いが、大きくなってきました。宇宙が好きなことは変わっていなかったので、地球観測衛星に関わる仕事をしたいと考えたのです。

当時のJAXAの一次面接では最初に、応募者から面接官に質問する時間がありました。私は、「JAXAは地球観測衛星を打ち上げて二酸化炭素の濃度を観測しているが、観測するだけでは二酸化炭素の排出削減にはつながらない。どういう取り組みが必要だと考えますか」と質問しました。すると「あなたはどう考えますか」と質問され、私は「観測結果を分かりやすいかたちで示すことが必要だ」と答えました。そのやり取りの中で、自分がやりたいのはそういうことなんだ、と気付かされました。

科学衛星運用・データ利用ユニット長 吉野 良子

地球観測研究センターセンサ室、気象庁出向を経て、衛星運用・データ利用ユニットへ。

気象庁出向後、出産・育児休業を経て復職するとき、相模原キャンパスか東京事務所での勤務を希望しました。仕事の内容より、子育てができる環境が優先でした。ですが、今やっている衛星データの利用促進は、就職の面接で気付いた、自分がやりたいことにつながっているので、結果的にはよかったと思っています。

進路選択に関するイベントで講演されることも多いようですね。どのようなアドバイスをされるのですか。

流れに身を任せてもいいのではないか、ということを話したりします。私自身、時々に偶然の出会いがあり、そのたびに選択して、今があります。

【 ISASニュース 2023年6月号(No.507) 掲載 】