プロジェクト実現に導くプロフェショナルに

宇宙科学プログラム室では、どのようなことを行っているのですか?

大きく3つの役割があります。1つ目は、宇宙研の正規の計画として認められた科学衛星・探査機プロジェクトについて、立ち上げから衛星の製作、打上げ、運用までの進行が適切か、管理することです。科学衛星・探査機プロジェクトは、こういう観測や探査を行えば画期的な知見が得られるという研究者のアイデアから始まります。研究者のアイデアをプロジェクトにしていくための支援が2つ目です。そして、アイデアからプロジェクトの実現までにどの段階でどのような評価や審査を行うべきかというルールや仕組み作りが、3つ目の役割です。

プロジェクトにしていく過程で重要なことは?

現状の正確な把握と将来あるべき姿を見通して計画を立て実行することです。宇宙科学プログラム室では、プロジェクト化に至る各段階でここまで達成していなければいけないという成熟度レベルを設定し、チームの検討の指標にしています。しかし成熟度レベルを設定しただけではだめで、そのレベルに達しているかどうかを正しく見極め、またプロジェクトの段階であるべき状態からバックキャストして適切な計画を立てて実行することが不可欠です。それを誤ると、次の段階でつまずき、どんなに素晴らしいミッションであっても実現できなくなってしまいます。

宇宙科学プログラム室のメンバーはそんな支援のできるプロフェッショナルであって欲しいと考えています。そのために経験に基づく知見も重要です。私は、これまで3つの衛星プロジェクトに、それぞれ数年から10年以上にわたって参加してきました。その経験を現職に生かすことが出来ているように思います。

これまで参加したプロジェクトで印象に残っていることは?

1990年にNASDA(宇宙開発事業団)に入社し、3年目から技術試験衛星VII型(ETS-VII)プロジェクトに参加しました。この衛星は「おりひめ」「ひこぼし」という2機で構成されていて、軌道上で自動ランデブ・ドッキング実験を3回行いました。1回目は1998年7月7日、七夕の日に行い、とてもうまくいきました。ところが2回目は難航し、分離してからドッキングするまで3時間の予定が3週間もかかってしまいました。

そのとき、宇宙で何かを成すことはとても難しいことだと、あらためて認識させられました。軌道上でなければできないこともありますが、地上でできることをどこまできちんと試験しておくかが重要で、それがミッションの成否を分けることを学びました。

コミュニケーションで信頼関係を築く

仕事をする上で大切にしていることは?

仕事というのは、互いに信頼関係を構築することが重要だと考えています。相手に信頼してもらうためには、自分が相手の信頼に応えられるようにしないといけない。逆も同じです。信頼関係を構築するときに欠かせないのが、言葉を交わすこと。仕事がうまくいくかどうかの半分くらいはコミュニケーションで決まると思っています。

宇宙科学プログラム室 室長 杢野 正明

ロケットの打上げを見た記憶に導かれて

子どものころは、どういうことに興味がありましたか?

電気回路の工作が好きで、小学6年生のころにはアマチュア無線の免許を取りました。通信のエンジニアになりたいと思うようになり、大学は電気系の学科を選びました。大学院では高エネルギー電子ビームの研究をしていました。

どういう経緯でJAXAに?

大学院在学中に国家公務員試験を受けて合格し、送られてきた資料の中にNASDAの紹介を見つけた瞬間、あっ! と思ったのです。

実は高校生のとき、種子島宇宙センターでのロケット打上げのテレビ中継をたまたま見て、「日本でもこんなことをやっているんだ」と驚いたことがありました。とはいえ、そのときそう思っただけで、宇宙関係の仕事をしたいと考えたことはなく、その出来事も忘れていました。NASDAの案内を見た瞬間に、それを思い出したのです。もともと大きなプロジェクトに携わりたいと思っていたので、宇宙関係なら希望をかなえることができるに違いないと、NASDAを志望しました。幸い、これまで複数の衛星開発プロジェクトに参加することができました。自分の希望だけではかなわないことなので、感謝しています。

宇宙科学プログラム室 室長 杢野 正明

今後どういうことをやりたいとお考えですか。

科学衛星・探査機プロジェクトには大小様々な規模のものがあります。これら全てを同じプロセス・基準で実施するのではなく、例えば、小規模なプロジェクトはタイムリーに実施できるようにプロジェクトの進め方に柔軟性を持たせるなど、規模に合った仕組みをつくりたいと思っています。

【 ISASニュース 2021年12月号(No.489) 掲載】