ガスも漏らさずにリュウグウから持ち帰りたい

小惑星探査機「はやぶさ2」の帰還カプセルは2020年12月6日、オーストラリアのウーメラ砂漠に着地しました。カプセルを最初に目視で確認したのが、澤田さんですね。

カプセルの中には、リュウグウのサンプルを格納したサンプルコンテナが収められています。サンプリング装置の開発責任者だったことから、大役を担うことになりました。

「はやぶさ」は小惑星のサンプルを地球に持ち帰る技術の実証が目的だったのに対して、「はやぶさ2」ではいかにきれいな状態でサンプルを持ち帰るかを重視していました。しかもリュウグウは有機物や水を多く含んでいると考えられるため、サンプルから揮発するガスも漏らさずに持ち帰りたい。コンテナを金属でシールすることにしたのですが、大気圏再突入時の衝撃に耐えられるものにするのが大変でした。シールしてはハンマーで思いっ切り叩き、駄目だ、ここを変えてみよう、とトライアンドエラーを繰り返しました。さんざん試験をしてきたので密閉されていると信じていましたが、オーストラリアで行った簡易分析でサンプルコンテナからガスが採取され、それが地球の大気とは異なることを示唆するデータが得られたときは、ようやく苦労が報われたと思いました。

サンプルコンテナを日本に持ち帰り、開封して最初に中を確認したのも、澤田さんだそうですね。

開発責任者の特権ですね。開けた瞬間こう見えるだろう、という映像を何度も思い浮かべていました。想像していたのは、粉のようなものでした。ところが実際は、数mmサイズの粒がゴロゴロとたくさん!「言葉を失うくらい感動した」といろいろな取材で話していますが、ものすごく感動すると何の言葉も出てこないものなのですね。

たくさんのサンプルを採取できたことは、もちろんうれしいです。でも、それは結果。開発から運用、回収に至るまで、サンプリング装置チームみんなでミスがないように目を光らせパーフェクトにできたことが、何よりもうれしく思いました。

次は火星の衛星フォボスからのサンプルリターン

現在は、どのようなミッションに取り組んでいるのですか?

火星の衛星フォボスに着陸してサンプルを持ち帰る火星衛星探査計画MMXに参加し、サンプリング装置の開発を担当しています。ロボットアームを使って筒状のコアラーを突き刺してサンプルを採取する新しい方式を考えているのですが、フォボスは重力が小さいのでコアラーに力を掛けると探査機が反動で浮いてしまうなど、いろいろな難しさがあります。

MMXのどういう点に面白さを感じていますか?

宇宙探査というのは遠いところに行ってこそ意義があると、私は思うのです。日本はまだ火星圏の探査に成功していませんから、火星圏に行くことにワクワクします。また、日本はサンプルリターン技術で世界をリードしているといっても、すぐ追い付かれてしまうでしょう。新しい技術に挑戦できるMMXは、面白いだけでなく、リードを維持するためにも必要なミッションです。

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新しくて、楽しくて、チャレンジングなことを

仕事をする上で意識していることはありますか?

新しくて、楽しくて、チャレンジングなことを、常にやっていたい。1つのことだけをやるのは苦手で、面白そうなことを見つけると、あれもこれもやりたくなってしまうんです。それで忙しくなって自分の首を絞めることになるのですが、モチベーションを維持するためには重要なことだと思っています。

今、宇宙探査イノベーションハブも併任しています。企業が持っている面白そうな技術を探してきて共同研究を行い、その成果を宇宙で利用し、また地上の技術に革命を起こすことを目指した組織です。新しくて、楽しくて、チャレンジングなことをやりたい私に、とても合っています。

例えば、360度カメラを宇宙で使ったら絶対面白い映像が撮れる!とリコーさんに声を掛け、小型全天球カメラの開発につながりました。国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に取り付け、とても素晴らしい映像が撮れています。JAXAデジタルアーカイブスで公開しているので、ぜひご覧ください。

企業の人に声を掛けると、最初は怪訝な顔をされることも多いです。自分たちの技術を宇宙で使うなんて考えたこともない、と。しかし、話をしていくと、面白そうだと協力的になってくれます。私たちにとっては地上の優れた技術を宇宙で使うことができ、企業にとっては事業拡大になる。そういうウィンウィンな関係を目指しています。普段の生活の中でも、これを宇宙で使ったらどうだろう?と考えたりしています。面白い技術があれば、将来の探査ミッションにも積極的に取り入れていきたいですね。

【 ISASニュース 2021年10月号(No.487) 掲載】