月の縦孔の中へ

UZUME(うずめ)というミッションを計画中だそうですね。

UZUMEは、日本の月周回衛星「かぐや」(SELENE)の観測によって2009年に初めて発見された月の縦孔を探査するミッションです。富士山の麓やハワイ島には、溶岩チューブと呼ばれる地下空洞がたくさんあります。溶岩チューブは玄武岩質の溶岩で形成されやすく、月の海と呼ばれる部分も、富士山やハワイ島の火山と同じ玄武岩質の溶岩です。発見された縦孔は、溶岩チューブが形成された後、隕石が天井を貫通したり、天井の一部が崩落したりしてできたものだと考えています。

探査するのは、「かぐや」が発見した3個のうち直径が100mと最も大きい、静かの海にある縦孔です。縦孔の中に入り、地下空洞の規模はどれくらいか、壁や床はどのような状態か、などを調べます。縦孔の中に入る方法は、いろいろ考えられます。探査機が縦孔の上空を通過するときにミニローバのようなプローブ(探査体)を投下する。縦孔の近くに着陸し、プローブを下ろす。更には探査機が縦孔の中に直接着陸するという方法も考えられます。私は工学者ではないので勝手なことは言えないのですが、どの方法も難しいけれども日本の技術と経験があれば、可能だと思っています。宇宙研には、難しいからやろうという野心的な人、ポジティブでやる気に満ちた人が多く、UZUMEに興味を持ってくれているので、とても心強いです。

月の縦孔探査には、どのような意義があるのでしょうか。

1つは、科学的な意義です。溶岩チューブは、火山活動を知る上で大変重要な要素であり、それを調べることは、火山活動を伴うような月や地球といった重力天体の起源や進化の理解につながります。もう1つは、人類の活動拠点の構築です。溶岩チューブの中は、隕石や放射線から守られ、温度もほぼ一定で、基地として最適です。

UZUMEは、現在ワーキンググループとしてさまざまな検討を行っており、2022年度にプロジェクトに移行する審査を受け、2025年度の打上げを目指しています。ワーキンググループでワイワイガヤガヤやっている今が、一番楽しい時期ですね。これからが大変ですよ。理学的な要求が高まり、それを満たすための工学的な課題が見えてくると、理学と工学が衝突することもあります。でも、それが重要なところで、口角泡を飛ばしながら、やりたいこと、できることを互いにぶつけ合うことで、誰もやったことがないミッションを実現できるのです。

「M」に込められた壮大な構想

UZUMEという名前の由来は?

日本神話で天照大神が天の岩戸に隠れて世の中から光が消えてしまったとき、岩戸の前で踊って天照大神を誘い出した女神、天鈿女命(あめのうずめのみこと)にちなんでいます。月の縦孔に光をもたらしたいという意味を込めて名付けました。ちなみに、UZUMEのフルネームは、Unprecedented Zipangu Underworld of the Moon Exploration(古今未曽有の日本の月地下世界探査)です。

UZUMEでは、火星で発見されている縦孔の探査も目指しています。火星の溶岩チューブの中で生命が誕生し、現在も生きている可能性があります。UZUMEの「M」は月のMoonと火星のMarsをかけているのです。火星探査に日本は遅れを取っていますが、月の縦孔探査に成功し技術を高めることができれば、一発逆転、世界に先んじて火星で生命を発見できる可能性があります。土星の衛星エンケラドスや木星の衛星エウロパ、冥王星の表面を覆っている氷に開いている孔も探査したいと思っています。衛星はMoon、冥王星も日本語はMから始まるので(Mei・ou ・sei)、UZUMEのままでいいでしょう。

私は、宇宙には宇宙飛行士だけが行くもの、という時代を終わりにしたいのです。人類が本格的に宇宙に出ていくためには、安全で恒久的な基地が必要であり、溶岩チューブは基地として最適です。UZUMEは、人類がみんなで一緒に宇宙に行くための大きなステップになるでしょう。

太陽系科学研究系 助教 春山 純一

自分の知識と経験を土台に考え、自分の責任で決める

講演会の講師を数多くされています。特に若い人たちに伝えたいのは、どのようなことですか。

進路など大事なことを決めるときは、考えて考えて考え抜きなさい、その時に、知識が役立つという話しをします。最近は、知りたいことが出たらそのときにインターネットで調べればいい、と思いがちのようです。本を読んだり、友達や先生と話をしたりして知識と経験を身につけていってこそ自分が何をしたいかが見えてくると思います。そして、もう1つ。大事なことを決めるときに一番大切なことは、最後は自分の責任で決めることだ、と言います。大変で辛いことかもしれません。しかし、そうしていけば、いつか目指すものに必ず近づくことができると思います。

【 ISASニュース 2021年7月号(No.484) 掲載】