成功と失敗の狭間の真剣勝負でこそ進歩する

「おおすみ」打上げ50周年記念で開催した「宇宙科学・探査と『おおすみ』シンポジウム」で総合討論のモデレーターを務められました

基調講演で秋葉 鐐二郎先生が大切なことを仰いました。「『おおすみ』成功に至る4度の失敗は全て成功とも言えるし、『おおすみ』の成功自体が失敗とも言える」 科学と技術は成功と失敗の狭間の真剣勝負でこそ進歩するということです。ところが最近の宇宙研は組織自体が失敗を恐れて萎縮し、大きな挑戦にしり込みしているという強い危機感を私はもっています。

* シンポジウムの様子は、YouTube特集でご覧いただけます。


宇宙研がやるべき大きな挑戦とは?

NASAやESAが躊躇するようなことに挑戦し続けるべきです。例えば、イプシロン級の小さな探査機で小回りよく機敏に(短期間低コストで)超一流の科学や技術に挑戦する。小型化は日本のお家芸、タイムリーに世界をリードするパイロットになれれば素晴らしいと思います。

宇宙飛翔工学研究系 教授 / 研究基盤・技術統括 森田 泰弘


プログラム化によって大きな挑戦を成功に導く

探査機の小型化は打上げ頻度の増加にもつながりますね。

そのとおり。単に回数を増やすだけでなく、これからの時代に大事なのは「プログラム化」という概念です。ひとつひとつの挑戦的な探査計画の物語を戦略的に繋ぎ、壮大な宇宙叙事詩として展開するのです。小惑星探査機「はやぶさ」と「はやぶさ2」は、結果的にプログラム化の勝利と言えます。今後はこのようなことを計画的に行う必要があるでしょう。


深宇宙OTVが探査を変える

探査機を小型化すると、遠くの天体まで行くことが難しくなるのでは?

答えの1つが「深宇宙OTV(深宇宙を行き来する輸送機)」というアイディアです。現在の探査機は、探査を行うためのコア部分と目的地までの往来を司る輸送部分で構成されていますが、後者はどの探査機でも似たり寄ったりです。それを共通化して宇宙に置き、繰り返し使えるようにしておけば効率が断然よくなります。探査機の開発はコア部分だけですむのでイプシロンでも深宇宙探査に挑戦できますし、高度な探査に英知を結集して宇宙科学が飛躍的に発展するでしょう。

深宇宙OTVを実現した例はあるのでしょうか?

まだありません。深宇宙OTVは、輸送工学と探査工学が融合し、1つのシステムとして最適化させることで実現します。これは、まさに「おおすみ」以来、私たちが挑戦してきた集大成、私たちだからこそ出てくる発想です。実現したら世界はすぐ追いかけてくるでしょう。科学や技術に携わる者としてこれ以上ない快感です。

温めると溶ける。新しい固体燃料を開発

打上げロケットについて新しい動きはありますか?

ロケットを身近な乗り物にするというコンセプトで、イプシロンではモバイル管制など打上げシステムの革新を図りました。次の大きな挑戦は固体燃料の改革です。現在の燃料は粒子を混ぜた樹脂に熱を加えて固めますが、一度固めるとやり直しが利きません。これでは効率が悪い。私たちは逆転の発想で、熱を加えると溶ける、それを何度でも繰り返せる固体燃料(低融点固体燃料:LTP)を開発して、まるでチョコレートのように簡単に製造しようと考えています。

現在の開発状況は?

一昨年、昨年と小型ロケットの飛翔実験(赤平市と大樹町)に成功し(写真)、現在は観測ロケットの開発に挑戦しています。その先はイプシロン級への応用です。低融点固体燃料という発想は昔からありましたが、実現できるはずがないと考えられてきました。実は、イプシロンのモバイル管制も、周囲からは「できっこないからやめておけ」と言われていたのです。でも、それくらい難しいことに挑戦しないと燃えないですよね。科学も技術も進歩しません。

未来に向けた抱負をお聞かせください。

「日本の宇宙開発は欧米の後追いで始めたわけじゃない。将来の目標を定めてやってきたのだ」という秋葉語録があります。この精神を胸に、これまでの延長線上にはない新たな世界を切り拓いていきたいと思います。

写真

LTPロケット初飛行(2018年、協力:植松電機)

【 ISASニュース 2020年10月号(No.475) 掲載】