「はやぶさ2」のサンプル保管・配分の施設を設計
昨年3月、文部科学省のクロスアポイント制度を活用してJAXAに来られました。なぜ宇宙研に。
クロスアポイントの活用は宇宙研の教育職では初と聞いています。2015年に「はやぶさ」および「はやぶさ2」のキュレーションを行う新組織、地球外物質研究グループが発足し、そのグループ長募集がありまして応募したわけです。「はやぶさ」には学生のころ、打上げ前の計画段階から関わってきましたし、帰還後はプロジェクトチームの一員として、小惑星イトカワから持ち帰ったサンプルの初期分析にも参加しました。もともと僕の専門は太陽系の起源と進化で、地球に飛来する隕石の情報をもとに太陽系の歴史をひもときたいと思っていますから、この機会を逃がすわけにいかないと思って。今は札幌と相模原で7:3の生活です。宇宙研には週1日か週2日くらいいます。
この1年間、主にどのような仕事を。
2014年12月に打ち上げられた「はやぶさ2」は、C型小惑星リュウグウのサンプルを採取して、東京オリンピック後の2020年12月に帰還します。そのサンプルを保管し、研究者に配分するための施設の設計を主にやってきました。今は最終設計が終わり、これから製作に入ろうという段階です。ここでの問題は、採取したサンプルを地球に汚染されないままの状態でいかに保つかということ。地球上に宇宙の真空をつくるのは不可能ですが、人間にできうる限りの真空をつくり、そこでサンプルの入ったカプセルを開く。開いた後も、地球に汚染されない環境を維持するため世界最高純度の窒素ガスを使います。そのあたりのノウハウは「はやぶさ」の経験の蓄積があります。「はやぶさ」以外にも、例えばJAXAが共同研究のパートナーになっているNASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」が持ち帰るサンプルのキュレーションや、火星の衛星の探査計画などにも携わっています。
宇宙研の研究室に太陽系をつくりたい
宇宙への興味が芽生えたのはいつですか。
小学校高学年ころから天体望遠鏡で木星を観察したりしていました。中学校に入るとジャコビニ流星群だとか火星の大接近だとか、天文イベントが続いていて、そこから自然に天文や惑星への興味が強くなっていったという感じです。でも、僕が本格的に宇宙の研究を始めたのは博士号を取ってからです。それまでは地球科学を専攻していて、博士論文も地球の深海の石をテーマにしたものでした。だから隕石から入っていったのかもしれませんね。地球の石から宇宙の石に研究対象が移っていっただけで、僕の中では決して不思議ではない。そんなこともあって、宇宙の太陽系の、それも大きな惑星ではなく、年代が古い小天体に興味を持ってずっとやっています。
宇宙研で仕事をされて、どのような印象を持ちましたか。
まず、みなさん非常に一生懸命にやられていること、そしてすごくポテンシャルがあると感じました。グループ長として、これからこの地球外物質研究グループの活動をより活発にして、JAXAの中での存在感を高めていきたいと考えています。「はやぶさ2」が帰ってくるまでは、比較的ゆったりした時間があるので、例えば今、宇宙研の研究室の中に太陽系をつくり、地球外物質をつくるというような研究をやってみたいと思っています。恒星の周りですごく小さな粒子ができて、それが集まって地球に成長するわけですが、それをリアルに再現する装置ですね。研究室の中に作る宇宙で、物質が物質が10nmから1万kmに進化する様子を原子・分子レベルで研究します。他には、採取したサンプルを、宇宙空間で探査機に載せたロボットが分析する装置の開発などもやっています。サンプルが地球に戻って来るまでには、冥王星くらいになると100年かかりますから。
「はやぶさ2」には何を期待していますか。
地球に飛来する隕石の80%はイトカワのような小惑星から来ることがわかっていますが、残りの20%がどこから来るのかわかっていません。しかし、宇宙にはその20%の物質からなる小惑星の方が多いのです。今「はやぶさ2」が目指している小惑星リュウグウは、イトカワよりも始原的な天体で、同じ岩石質の小惑星でありながら有機物や含水鉱物をより多く含んでいると考えられます。僕らの予想が正しければ、それは炭素質隕石のようなものです。有機物がたくさん入っているので、これを研究していくことで地球上の生命の素が宇宙からどういうふうにやって来て、宇宙の物質からわれわれのような生物に進化したか、その糸口がつかめると思う。「はやぶさ2」は、100mgのサンブル採取で成功と公表していますが、正直なところ、ティースプーン1杯くらいはぜひ持ち帰ってほしいですね。
【 ISASニュース 2017年5月号(No.434) 掲載】