第10章 たくましき仲間たち

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物語「性能計算書」(3)

ちょっと特別──さきがけ

日本初の地球脱出ミッションMS-T5は、ロケットが新しいM-3SIIであり、探査機も惑星間空間を飛ぶ特別仕立て、大型アンテナを使用するし、また膨大なソフトウェアの面から見ても、地球周回ミッションとは、確かに一味異なるミッションである。これまたスコッチから“Something Special”が選ばれた所以である。「ちょっととぼけた感じが出ていていいね」とは松尾の弁。衛星名はもめにもめた中から「さきがけ」が抜け出した。「《やぶさめ(流鏑馬)》の方がよかったなあ」とは林友直の弁。

M-3SII-1/Something Special/さきがけ

彗星の芯へ──すいせい

空前の盛り上がりを見せたハレー探査機PLANET-Aあたりから、性能計算書の表紙には念の入った加工が施されるようになった。ハレー彗星の核に近いところをめざす意味で、広島・三原の銘酒「酔心」からの翻案で「彗心」と名づけられた性能計算書は、本物の「酔心」のラベルが貼られ、的川が「酔」を「彗」にひげ文字で書き換えた。折からInternational Halley Watch(IHW)という地上観測網を含む世界的キャンペーンがあったので、そこからI.W. Harperに手を入れたI.H.Warper(国際ハレー仕掛け人)も、捨てがたい案として裏表紙に。

M-3SII-2/彗心/すいせい

M-3SII-2/ I.H.Warper/すいせい

ジンジャーかギンガか──ぎんが

CORSA-bのときに、「はくちょう」が本命の「ぎんが」を抑えて衛星の愛称になった顛末は既述したが、そのためASTRO-Cの愛称については、文句なく「ぎんが」が本命視された。ASTRO-Cのために働いている外国の研究者までが“ぎんが”と変な発音で言う始末。そこで性能計算書としては「銀河を観測する世界の切り札だよ。でも《ギンガーエース》って読まないでね」という但し書きつきで“Ginger Ace”とした。

さて愛称選考の段階になると、「ぎんががぎんがを見る」という言い方は奇妙だという人も出現して、しばらくもめたが、結局は「ぎんが」に落着した。ところが軌道に上った後に、外国では、肝腎の衛星名を「ジンジャー」と読む人が続出したという。

M-3SII-3/Ginger Ace/ぎんが

「磁」気圏「探」査──あけぼの

諸説紛々とする中で「EXOS-Dは磁気圏探査だから、フランスのタバコの“Gitanes”(ジタン)がいいよ。《ジタン》と読むからね」と力説する人がいて選ばれた。タバコの箱に印刷された美しい曲線が、人々の想像の中でオーロラの優雅な姿に重なってスマートだった。発射オペレーションの期間中、内之浦のコントロールセンターに、“Gitanes”の煙が渦巻いたことは言うまでもない。衛星名「あけぼの」。

M-3SII-4/Gitanes/あけぼの

太陽系探査への布石──「ひてん」

「ひてん」は言わずと知れた二重月スウィングバイの習得を主目的としたミッションなので、そのままジョニー・ウォーカー社の“Swing”に決めたが、プロマネの上杉邦憲が、「初孫」という酒を持ってニコニコと現れた。この衛星の天辺には、さらに小さな衛星が鎮座しており、月到達の後にMUSES-Aから切り離されて月を周回する軌道に初めて投入される。孫衛星である。「ははぁ、だから初孫か!」ただ、主たる目的がスウィングバイにあったので、この「初孫」は裏表紙に貼り付けた。

M-3SII-5/Swing/ひてん

M-3SII-5/初孫/はごろも

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