第10章 たくましき仲間たち

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夢をもって宇宙科学へ

宇宙科学を研究している人間を、皆さんはどんな人種だと思っているだろうか。ひょっとして、朝から晩までブラックホールとか星の誕生などのことを考えている変り者だと考えてはいないだろうか。実は全くそんなことはない。もちろん、自分の専門分野での大きな問題には、しょっちゅう頭を悩ませているが、3度の食事はちゃんと摂るし、風呂も入るし、床屋にも行く。

ただ時々は変わった人もいる。研究所に来てみたらネクタイを2本していたとか、研究室に入ってコートを脱いだら、コートとブレザーの間からハンガー(プラスティックではない、木のハンガーですぞ)が転げ落ちたり、…。この後者の場合、たまたまそばにいた人が「あ、ハンガーが!」と叫んだところ、その人はジロリとハンガーをにらんで、「そうか、どうも今日は運転してて肩が凝ると思った」と言ったそうだから豪快である。でもその程度の人なら、皆さんのそばにも少しはいるのではないだろうか。

よく講演などに行くと、「宇宙には果てがあるんですか?」とか、「UFOはいますか?」などと質問される。専門家にとっていわゆる「素人」の質問ほど恐いものはない。だってその質問事項には、分からないからこそ研究している、という事柄が圧倒的に多いからである。だからちょっと逆説的だが、「宇宙科学の分野で何が分かっていないかを分かっている」のが宇宙科学者で、そうでない人は「素人」だと言うことが出来るのではないか。専門家同士では(たとえばゼミなどで)どんな質問をするかによって、その人がよく勉強しているかどうかがすぐに分かってしまうのである。

しかしこの「素人」の素朴な発想は、学問の歴史の中で大変大きな役割をしてきた。言ってみれば宇宙開発でも、空を飛びたいとか月へ行ってみたいとかいった長い長い間の「普通の人々」の憧れを実現したものにほかならないのである。だから皆さん、宇宙開発や宇宙科学に対して、質問や要求や夢を、思い切ってぶつけて頂きたい。またこれから社会人に育っていく少年少女のみなさんは、他人に聞かれたら恥ずかしいような大きな夢と志をもって、人生に踏みだして欲しい。

夢を「素人」として追いかけているうちに、いつの間にか私たち宇宙科学研究者の仲間になっていた、というのが最高である。世界と日本の宇宙科学は今、宇宙への内発性に溢れた若いエネルギーを大いに必要としている。

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