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システム工学は焼き鳥の串

宇宙科学研究本部の前身である宇宙科学研究所の主要な活動の一つは、ロケットの設計開発だった。「ロケットの研究に必要な学問分野は何ですか」とよく聞かれるが、あまり簡単に答えることはできない。まずロケットは燃料を燃やして、それをお尻の方から噴出して推力を得る。この推進の研究を行うには、燃焼理論が必要である。燃えたガスの流れを研究するために流体力学も要る。燃やすとその熱に耐える物質の化学について研究する。

第2に、燃料を入れておくケースや段間の切り離し機構についての研究のために、材料力学や構造力学が要る。飛んでいる最中に空気の力や突風などの影響でロケット自体が曲げられたり、その運動が変化したりする効果を知らないから、空力弾性学の知識も要求される。

第3に、飛んでいるロケットを電波で追跡したり、ロケットから送ってくるデータに関する複雑な電波信号を受信したりするのに、電子通信工学、電子工学の研究を積まなければならない。それだけでなく、ロケットこそはまさにエレクトロニクスの塊なのである。

第4に、ロケットの飛翔経路を解析するための数学や力学、とりわけコンピューターには精通していなければどうしようもない。

こうして見ると、ロケットというひとつの大きなシステムを構築するために、ひとりでは到底マスターすることのできない様々な分野が協力し合っていることが分かる。だから宇宙科学研究所に限らず、どこの国の宇宙機関でも、ロケット部門には、専門の異なる様々な領域の人が、ひしめき合っている。しかしこうも分野が違っていると、話をまとめるのが難しくなる。そこに「システム工学」という分野が生まれてくる。

焼き鳥はネギやらタンやらハツやらが1本の串に支えられて大変食べやすいように串指しにされている。串そのものは食べられないが、多くのおいしい物を1本の焼き鳥にまとめて、食べやすいようにする。これがシステム工学の真髄である。

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