第10章 たくましき仲間たち

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ラーメンの指

アメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センター(Kennedy Space Center)はKSCと略称されている。ところで当時の宇宙科学研究所のロケット打上げ場(鹿児島宇宙空間観測所)もKagoshima Space Center(ハレー探査の当時)だから略称はKSCである。だから国際会議の場ではしばしば混乱のもとになる。しかしアメリカの方は、もともとはメリット島の宇宙施設のうち発射オペレーション関係のものだけが1963年に独立し、悲劇の大統領の名を冠せられたものである。日本のKSCはその直前の創設だから、鹿児島が元祖なのである。そこでKSCという名がアメリカ人の話題に出たら、すかさず、

「それはオリジナルKSCのことか、セカンドKSCのことか?」

と質問をして、宇宙科学研究所の人間は広さの比較からくる欝憤をチョッピリ晴らすのである。

今から10年くらい前のこと、その「元祖でない」KSCの近くのココアビーチという町のホテルで行われたIACG会議には、アメリカ・ソ連(当時)・ヨーロッパの友人たちとともに、日本からも10人くらいの人が出席していた。

ホテルでの「アメリカ式」食事にも飽き、かと言って適当な日本食堂も見つからないので、日本人はそろって近くの中華料理屋「バンブー・パンダ」に繰り出した。ウェイターとしばしの押問答の末、みんなの注文は仲良く「ヌードル・スープのジャンボ」!

つまり大盛りのラーメンですな。

さて件(くだん)のウェイター氏、やがて出来上がったラーメンをシズシズと持ってきたのはいいが、なんと決して綺麗とは言えない親指を、ラーメンの汁にドップリと漬けているではないか。恥ずかしながらこのテのことが全く気にならない人はその親指には気が付かなかったのだが、さすがに育ちのよい広澤春任が真っ先にそれに気付いた。

「アッ、キタナーイ。」

次から次へと運ばれてくるラーメンは、そのウェイター氏の親指の洗礼を必ず享けていた。そこで、一応抗議しておこうと、一人の同僚が、その店のマスターに声をかけた。

「ネェ、あのウェイターは、ラーメンの汁に親指を突っ込んで運んで来るんだよ。」

その次に展開された状況は、みんなの予想を全く裏切るものだった。そのマスターは、ニッコリと笑って、こう答えたのである。

「そうなんです。アイツは、もう何年間も熱い汁に突っ込んでるので、全然熱くないらしいんですね。」

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