第10章 たくましき仲間たち

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珍酒《大隅大海》

出張も長くなると、退屈しのぎの悪戯が増えてくる。

1966年の冬のこと。内之浦のとある旅館で宇宙理学の長老たちが、人気教授・平尾邦雄の誕生日を祝って、焼酎のピッチを上げていた。平尾邦雄、小田稔、大林辰蔵の3人である。そこへ若い助手(当時)の長友信人が厳かに焼酎の一升ビンを捧げ持って入ってきた。

「エー、平尾先生、お誕生日おめでとうございます」

平尾曰く「なんだ、悪戯小僧。殊勝な顔をして。そのビンは?」

大隅大海の原料(鹿児島県内之浦の町並みと内之浦湾)

大隅大海の原料(鹿児島県内之浦の町並みと内之浦湾)

長友答えて曰く「本日は先生の誕生日ですので、《大隅大海》を持参いたしました」

平尾「ヘェーッ、《薩摩大海》というのは聞いたことがあるが、《大隅大海》とはね。そんな焼酎が出たのか。まさか変なものではないだろうな」

長友「とんでもない。これは正真正銘の《大隅大海》です。工学の悪童どもからのささやかなお祝いです」

平尾「何だか気持ちが悪いが、ともかく有難う(いささか涙ぐむ)」

やがて宇宙理学の長老たちは、それぞれのグラスに《大隅大海》を注いで、チビチビ飲み始める。平尾、相変わらず涙ぐんでいる。そのうち、小田が突如素頓狂な声をあげる。

「なんだ、こりゃ。ちょっと塩辛いぞ」他の2人も「そういえばそんな気がするな。何か変だから飲むのはやめにしとくか」

そこへ悪童のひとり、松尾弘毅が斥候を命じられたらしく、開いている襖の外を、横目で中を伺いつつ通りかかる。それを平尾がムンズと捕まえて、部屋の中に連れて入る。

「こら、どうした。一体この焼酎に何を入れた」

松尾、白状して曰く「実は、そのビンの中身は、焼酎が3分の1くらいで、あとは内之浦湾の海水です」

平尾、松尾を羽交い締めにしたまま、隣の部屋にいるとおぼしき悪童どもに叫んで曰く、「オーイ、全員正直に謝りに現われろ。こちらは人質を捕まえているのだからな」

隣から毅然とした応答あり。

「人質とは、捕られて手痛い打撃になる人物のことを言う。今の場合は煮るなり、焼くなり、好きなようにしていただいて結構」

悪童どものお頭、秋葉鐐二郎の声であった。

松尾「そりゃないよ。」

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