ロケットをつくりたいと考えていたが......

「嶌生」は、あまり見かけない苗字ですね。また、お名前の「ゆうり」からは、人類で初めて宇宙飛行に成功したユーリ・ガガーリンを連想したのですが、由来を教えてもらえますか?

調べたことがあるのですが、嶌生姓は全国的にも非常に珍しい苗字のようです。「ゆうり」は、男でも女でも使える名前がいいと、母が私の誕生前から決めていたそうです。ユーリ・ガガーリンではなく、映画『ドクトル・ジバゴ』の主人公、ユーリ・ジバゴに由来しています。彼は医者であり、詩人でもあります。映画好きだった母は、そうしたいくつもの才能をもつ人になってほしいという思いを込めて名付けたと聞いています。いろいろなことに興味があって、いろいろなことをやりたい私に合っている名前だと感じています。

これまで、どのようなことに興味を持ってきたのでしょうか?

高校時代は、今やっていることとはまったく違い、ロケットをつくりたいと考えていました。小学生のころから漫画をたくさん読んでいて、月を目指す人たちを描いた『MOONLIGHT MILE』(太田垣康男 作)などの影響もあり、宇宙に関わる仕事がしたいと思うようになったのです。

ロケットについて学べる学部・学科がある大学を探し、志望大学を決めていました。ところが高校3年生のとき、理科の選択科目で何となく地学を選んだら、その授業がとても面白かったんです。1億分の1スケールの太陽系を校庭につくったり、百貨店に行って大理石の壁に化石を探したり。見たり触ったりして体感できる地学の楽しさを知って地球惑星科学を学びたいと思うようになり、志望大学を変更、名古屋大学の理学部地球惑星科学科に進みました。

地球惑星科学科に進んで、いかがでしたか?

地質調査をしたり、大気や海洋、太陽系の誕生なども学べて、いろいろなことに興味がある自分に合っていました。ここでもまた興味が変わるのですが、卒論は地球科学ではなく太陽系の起源(惑星形成論)をテーマにすることに。研究室は実験か理論かの選択肢があったのですが、体感できる方がいいと思って実験系の研究室に入り、そのまま大学院に進みました。

どのような実験を行っていたのですか?

太陽から遠いところには、氷でできた微惑星が数多く存在しています。それらが衝突合体して氷天体が形成される過程を調べるため、北海道大学低温研究所の低温室で、自作した装置を使い、寒さに耐えながら、ひたすら氷や雪玉の衝突実験を行いました。

いつ宇宙研に?

博士課程修了後は、岡山大学惑星物質研究所で隕石の物質科学的研究を行っていました。宇宙研に来たのは2017年で、「はやぶさ2」プロジェクトチームのポスドクとしてです。2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに到着する少し前のタイミングでした。熱赤外カメラTIRによる小惑星リュウグウの観測データ解析などを担当しました。

「はやぶさ2」が行うサンプルリターン探査に、とても興味を持っていたのです。大学では、地質調査に行き、岩石を採取してきて分析するという授業もありました。その岩石はどこで採取したものかが明白です。隕石の場合、分析はできますが、どこから来たかという情報がありません。隕石の分析をしていたとき、産地が分かっている試料を手にすることが重要だと考えていたのです。サンプルリターン探査では、それを実現できます。

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プラネタリーディフェンスとは

現在は宇宙科学プログラム室に所属されています。

宇宙科学プログラム室は、各プロジェクトのマネジメント部分を支援する部署です。私は戦略的海外共同計画と呼ばれる、海外の宇宙機関が主導しJAXAが観測機器などを提供するプロジェクトの支援を担当しています。具体的には、2024年に打ち上げられた二重小惑星探査計画Heraと、2028年度打上げ予定の小惑星アポフィス探査計画RAMSESなどです。どちらも欧州宇宙機関(ESA)が主導しています。

「はやぶさ2」の後、Hera所内プロジェクトチームに所属していたときに、宇宙科学プログラム室のキャリア採用の公募が出たのです。当時の私は任期付きの招聘職員だったため、それに応募し、2022年より宇宙科学プログラム室の一員となりました。そうした経緯もあり、宇宙科学プログラム室としてHeraを支援しつつ、Hera所内プロジェクトチームも併任しています。

Heraはどのようなプロジェクトで、なぜ「はやぶさ2」の後に携わるようになったのですか?

Heraは、米国航空宇宙局(NASA)のDARTというプロジェクトと連携して、人類史上初めてプラネタリーディフェンスの技術実証を行います。JAXAは「はやぶさ2」の熱赤外カメラTIRを高解像度・多バンド化した熱赤外カメラTIRIを、Heraに提供することになったため、私が引き続き担当することになったのです。

プラネタリーディフェンスとは?

小惑星の中には、地球の近くを通過する軌道をもつものがあり、小惑星が地球と衝突する可能性もあります。小惑星が地球に衝突しないようにするにはどうすればよいか、衝突が避けられない場合はどのような対応が必要かが議論されてきました。それがプラネタリーディフェンスという取り組みです。日本語では、惑星防衛あるいは地球防衛と呼ばれます。

衝突回避の方法の一つが、探査機を小惑星に衝突させて、その軌道を少し変えるというものです。それを実証しようとしているのが、DARTとHeraです。DARTは2021年に打ち上げられ、2022年に小惑星ディディモスの衛星であるディモルフォスへの衝突に成功しました。Heraは2024年に打ち上げられ、2026年現在、小惑星に向かって飛行中です。2026年末に到着し、DARTの衝突によって形成されたクレーターの状態、軌道や自転への影響を調べる予定です。

RAMSES:地球接近小惑星アポフィスを探査

担当しているもう一つのプロジェクトであるRAMSESとは?

2029年4月13日に、直径約300mの小惑星アポフィスが地球から約3万2000km、月までの10分の1程度のところを通過します。RAMSESは、このアポフィスを探査するESAのプロジェクトです。JAXAは、Heraに提供したTIRIのスペア品とDESTINY+の開発実績に基づく薄膜軽量太陽電池パドルを提供し、さらにH3ロケットによるDESTINY+との相乗り打上げ機会を提供します。

RAMSESへの参加は、ESAから要請があったのですか?

そう聞いています。「はやぶさ」「はやぶさ2」、そしてHeraを通して、日本の小惑星探査技術や観測機器は、国際的に高い信頼を得ています。

プラネタリーディフェンスは、地球全体に関わるため国際協力が不可欠です。それは国連が、アポフィスが地球に最接近する2029年を「小惑星認識と惑星防衛の国際年」に指定していることからも分かるでしょう。プラネタリーディフェンスは、いわば防災活動です。自然災害が多い日本は国民の防災意識が高いと思います。それらは、国際協力の中で日本の強みになるのではないでしょうか。

JAXAプラネタリーディフェンスチーム始動

JAXAでは、2024年にプラネタリーディフェンスチームが発足し、嶌生さんも所属されています。どのような活動をしているのでしょうか?

小惑星の発見・監視、探査ミッション、政府機関・国際機関との調整、広報活動などに取り組んでいます。小惑星の衝突は、アニメや映画の中の出来事だと思われることも少なくありませんが、現実に起こる可能性があることを、多くの人に知ってもらいたいのです。小惑星が地球に衝突することが分かれば、小惑星の軌道を変えるなどの対策がとられます。しかし地球への衝突が避けられない場合は、避難が必要です。プラネタリーディフェンスが十分に知られていないと、いざというときに適切な避難行動が取れません。

プラネタリーディフェンスのスコープ

Hera、RAMSES、プラネタリーディフェンスのチームを併任されていますが、それらは「はやぶさ2」からつながってきているのですね。

そうなんです。岡山大学惑星物質研究所にいたとき、チェリャビンスク隕石を分析しました。2013年にロシアに落下し人的被害も出たことから、プラネタリーディフェンスの重要性が強く認識されるきっかけとなった隕石です。これもつながりを感じています。

次世代小天体サンプルリターン探査へ

今後は、どのようなことに取り組みたいとお考えですか?

次世代小天体サンプルリターン探査を提案しています。「はやぶさ」がイトカワから、「はやぶさ2」がリュウグウから試料を持ち帰りました。次にどのような試料を手にしたいかと科学者に尋ねると、もっと始原的な天体の試料だと返ってきます。そこで、太陽系ができたころの情報をもつ彗星の試料を持ち帰る計画を立てています。彗星も氷天体です。大学院時代に取り組んだ氷の衝突実験とも、ここでつながってきました。

次世代小天体サンプルリターン探査には、どのように携わっているのですか?

理学と工学のワーキンググループがあり、私は理学ワーキンググループの代表補佐を務めています。「はやぶさ2」では、理学と工学が互いに真摯に対話を積み重ねて、相手の領分にも互いに首を突っ込みながら、一緒に進めていました。それが宇宙研のよさだと思うのです。次世代小天体サンプルリターン探査でも、その関係を引き継いでいきたいと考えています。

「はやぶさ2」では、順調なときもトラブルが発生したときも、情報を発信していました。皆さんもワクワクしたりハラハラしたりしながら、一緒に冒険をしているような感覚で応援してくれていたのではないかと思います。

私も「はやぶさ2」の広報活動に関わっていたので、その経験を活かし、現在はHeraの情報発信に努めています。そして次世代小天体サンプルリターン探査も、「はやぶさ2」のように皆さんに応援され、一緒に冒険を楽しんでもらえるようなミッションにしたいと思っています。

大切なのは、他者理解と共感

プロジェクトを進めるために大切なことは何だとお考えですか?

他者理解と共感ではないでしょうか。プロジェクトを進める中で分かったのは、いろいろな人の助けが必要だということです。ただし、相手を理解できていないと、助けてほしいと伝えることも、助けることもできません。相手の立場を理解し、相手の言葉を理解しようとする姿勢が大切なのだと思っています。

1年ほど前からボーイスカウトの指導者をやっています。それで思い出したのですが、子供のころにボーイスカウトの活動で身についたことが、今の仕事にも役立っていると感じます。例えばキャンプでは、それぞれが役割を持ち、その自分の役割を果たしつつ、足りないところがあれば率先して動く。それは、プロジェクトを進める上でも必要なことですよね。

趣味は?

いろいろなことに興味があるので、趣味も2、3年ごとに変わります。少し前は庭木いじりをしていましたし、ギターやドラムをやってみたこともあります。うまくはできませんが、1週間ほど頑張って練習すると、少しできるようになる。できるようになると楽しい。スモールステップで成功体験を積むことの大切さを実感しました。

それはプロジェクトでも同じでしょう。成功体験はモチベーションにもつながります。最近は、休むときは全力で休むようにしているのですが、こんなふうに、ふとプロジェクトのことを考えていることもあります。いろいろなことに興味がある私ですが、宇宙科学プロジェクトへの興味は尽きることがありません。それが好きで、楽しいのだと思います。

【 ISASニュース 2026年1月号(No.538) 掲載 】(一部加筆)