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「たんせい3号」──M-3Hの初号機

M-3H-1号機キックモータ点火による影響

M-3H-1号機キックモータ点火による影響
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「たんせい3号」

「たんせい3号/MS-T3」

1976年2月、日本初のX線天文衛星CORSA(後述)を搭載したM-3Cロケットが太平洋の藻屑と消えた後、東大宇宙研はM-3Cの第1段モータの長さを3割あまり伸ばして推力を増強したM-3Hに進んだ。M-3Hは基本的にM-3Cと同世代に分類さえる。その1号機で打ち上げたのが、試験衛星「たんせい3号」である。1977年2月19日14時15分に打ち上げられ、3段目の燃焼の後、衛星が地球を約半周回したところでキックモータを衛星タイマにより点火して、近地点高度791km、遠地点高度3,813km、傾斜角65.7度の高傾斜角軌道を実現した。

ヒートパイプ、表面塗装を塗りわけることによる熱設計など衛星搭載機器の動作は、シャットオフバルブ作動コマンドの誤動作を除いてすべて正常で、多くの良好な工学および科学データを得ることができた。

「たんせい3号」では、姿勢制御実験が最も重要な項目であり、約2週間の前半をコールドガスジェット装置による実験、後半を沿磁力線安定化実験に予定した。しかしながら、予期せぬシャットオフバルブの妨害電波による誤動作のため、ガスジェットによる実験は途中で中止し、沿磁力線姿勢安定化実験に入った。

沿磁力線安定化実験は、まず第22周目にヨーヨーデスピナによりスピンを7分間に1回程度のほぼ零に近い値に低下したあと、沿磁力線安定化マグネットの展開を行った。そこで衛星のライブレーションを測定したところ、衛星基準軸(もとのスピン軸)と地磁気磁力線のなす角は周期9分ないし12分で変化し、地球を1周する間には40度から130度の値になっていた。その後第32周目から39周目にかけてのオペレーションにより、第41周目では衛星基準軸と地磁気磁力線のなす角の最大値が6度から18度の値になり、沿磁力線安定化制御システムが正常にその機能を果たしていることが実証された。

第1周目にサンチャゴ局で取得した「地球の裏側」でのテレメータデータを再生した結果、初めて判明し大変肝を冷やしたが、キックモータの点火前、衛星とキックモータが結合している期間にコーニング運動が発生し、半頂角で15度~17度までに成長していた。幸いにも、キックモータ点火燃焼に伴いこれはジェットダンピングにより減衰して、更にモータ分離後のニューテーションダンパ作動により再びスピン軸方向は一定に保たれ危うくことなきを得たが、これは衛星搭載ヒートパイプ中の少量の流体による運動エネルギー消散によって引き起こされたことが明らかになり、今後の大きな教訓になった。

コールドガスジェット装置による一連の姿勢制御実験終了後に閉じる予定のシャットオフバルブが、実験の途中で閉じてしまい、この実験は早期中止を余儀なくされた。しかしその時開発された技術やソフトウエア開発を含む実験準備の経験は、後の「さきがけ」「すいせい」における姿勢制御技術の基礎となった。

この誤動作は、コマンド系が地上電波の妨害を受けたためで、今後衛星コマンド系の設計において、重要項目についてはコマンド制御を二重にするなどの手段により誤動作防止に一層の配慮を払うことになった。

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