第4章 初期のミューと宇宙科学

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「たんせい」──最初の試験衛星

M-4Sロケット1号機が衛星MS-F1の軌道投入に失敗した後をうけて、急遽計画されたのが試験衛星MS-T1であった。すでに3種類の科学観測機器を搭載する科学衛星のフライトモデルMS-F2を用意していたが、慎重を期してM-4Sの2号機にはこれを乗せず、新しく試験衛星を製作することになった。

この衛星は軌道上における衛星の環境および機能試験を目的とし、来るべき1号科学衛星とほとんど同型、同重量で、主要エレクトロニクスも電源を除いてほとんど同一のものとした。部品をかき集め、3カ月で製作し、年内に飛翔前試験にこぎつけるという、今では考えられない猛スピードで2月の打上げに間に合わせた。当時の実験チームの意気込みが伝わってくるようである。特に衛星を製作した関係メーカーの苦労は並大抵ではなかっただろう。

この衛星は1971年2月16日、M-4S-2によって衛星軌道投入に成功した。初の「ミュー衛星」の軌道は、近地点高度990km、遠地点高度1,110km、周期106分で、わが国2番目の衛星となり、前述のとおり東京大学のスクールカラーにちなんで「たんせい」(TANSEI、淡青)と命名された。

「たんせい」の形状は、直径約75cmの球に内接する26面体であり、構体はマグネシウム合金で、外板には厚さ8mmのアルミニウムハネカム板が使用されており、表面にはエポキシ系半光沢黒色塗装が施してある。パネルのあちこちには反射鏡6個がはられている。重量は63kgである。

内之浦において第1周の受信が14時50分40秒(日本時間)から15時9分12秒の間に行われ、人工衛星軌道に乗ったことが確認された。衛星寿命は酸化銀電池の容量から1週間と決まっていたが、内之浦における観測は、2月23日15時(第96周)まで実施した。この間太陽電池の性能を計測する機器以外の搭載各機器はいずれも正常に作動し、37回行ったデータレコーダの再生データから周回中の衛星各部の温度、電源電圧、電流、姿勢、スピンなどに関する豊富な資料を入手する事ができた。また、テレメータ、コマンド系の試験も良好に行われた。

格納される「たんせい」

ノーズフェアリングに格納される「たんせい/MS-T1」と第3段モータ

皇太子(現天皇)駒場の宇宙航空研究所訪問

駒場の宇宙航空研究所を訪問された皇太子(現天皇)と糸川(左)、高木(右)

その結果、衛星内部の温度、環境がほぼ予測通りの良好な状態に保たれ、姿勢もきわめて安定に保たれていることが確認された。また、電池の寿命もほとんど当初の予定どおりであった。太陽光を反射させ地上からの光学観測を行うための反射鏡も目的を果たした。

Mロケットで打ち上げた衛星へ初めてコマンド電波を送ったときのことを、井上浩三郎が次のように述べている。

──軌道上の衛星をコントロールできるのは唯一地上からの送信コマンドです。地球を1周回した衛星がコマンドをちゃんと間違いなく受け付けてくれるだろうか? これが不調に終わればミッションはすべてだめになってしまう。地上で何カ月もかけて試験を行ってきたので絶対大丈夫、PN符号(Pseudo-Noise Code)から作ったコマンドで誤る確率は非常に小さいはずですが、自信と不安が錯綜して胸を締め付けられました。結果はすべて良好でしたが、後日、ある新聞社から「どんな気持ちでコマンドを打ちましたか」とインタビューを受けた時、野村民也先生が「『神に祈る思いで打ちました』と言いなさい」とアドバイスしてくださったのに、インタビューでは「淡々と打ちました」と強がりを言ったことが思いだされます。今はすべてコンピューターがやってくれますが、貴重な経験をさせていただきました。──(井上)

今では笑い話になるが、無重量の軌道上でデータレコーダの回転を止めると2度と回転しないのではないかと真剣に議論したものである。結局ミッションが終わるまで1度も止めることがなかった。なにしろ地球1周したときのデータ(特に日本から見えないところのデータ)を出来るだけ多く集めることがミッションの目的を達成できるカギを握っているというわけで、データレコーダがすべてであった。

衛星で記録されたデータを内之浦の上空で19倍の速さで再生し、それを地上で受信するという、記録と再生の繰り返しで、データレコーダには過酷な耐久試験をしたことになったが、宇宙環境下での貴重なデータを取得することができた。ともあれ、この「たんせい」衛星の成功は、実験班の大きな自信となり、Mロケットによる日本の科学衛星の時代が始まった。当時の皇太子(現在の天皇)が駒場キャンパスを訪問したことがある。高木昇と糸川英夫が「たんせい」について説明をした。

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