●「プロローグ」

2014年に宇宙へ飛び立った「はやぶさ2」。いよいよリュウグウ到着が目前になった。往路28億kmの航行をひとことで言うと「順調」。2015年12月には地球スイングバイを成功させ、その後の3期にわたるイオンエンジン長時間運転は、あと第3期の半分を残すのみである。ただし、ご注意あれ。順調はプロジェクトメンバーの苦心と努力により成ったもので、決して暇だった訳ではありませぬ。たとえば、軌道計画は飛行状況を慎重に見極めつつ安全度を増す重要な修正が3回実施されたし、イオンエンジンの調整は毎週のように行われている。「はやぶさ2」で初めて導入された新しい姿勢制御・通信・航法技術も、安定航行に一役買った(それらの詳細は連載の中で紹介していきます)。

「はやぶさ2」プロジェクトのもうひとつの特徴は、来る小惑星近傍フェーズ運用に向けて大規模な訓練を行ってきた点であろう。超遠距離管制と天体着陸を忠実に再現した訓練は、少なくとも国内では初めての試みで、200人以上が関わり、3億km彼方の探査機を果断精密に制御するためのチームワークと運用練度向上に繋がった。

探査の要諦は、未知世界への挑戦だ。未知なのだから、どんなに計画が綿密であっても不完全。しかし、だからこそ実行する意義がある。新しい英知とはそのようにして勝ち取るべきものである。プロジェクトメンバーのモチベーションもそこに立脚しているし、その過程も成果も人類全体で共有してゆこう。願わくは、推定を超える美人の乙姫様に拝謁できんことを(むしろ美人の概念を覆されるのかもしれないが)。それから、一つまみでよいので、お宝をいただければ。

プロジェクトマネージャ 津田 雄一(つだ ゆういち)

「はやぶさ2」の往路軌道(太陽と地球を結ぶ線を固定した座標系)

「はやぶさ2」の往路軌道(太陽と地球を結ぶ線を固定した座標系)

 

●「リュウグウ近傍での運用をシミュレートする - RIO訓練」

「はやぶさ2」は、初号機に比べて若いチームで運用するので、経験不足を補うために、到着までの時間を使用して「訓練」を行っております。訓練のメニューについては、プロジェクトメンバで議論して準備を進め、2017年度から実施することになりました。

「はやぶさ2」の訓練は、大きく分けて2つあります。1つは、小惑星到着後の様々な観測に基づいて、どこにタッチダウンするかを決定するLSS(Landing Site Selection)訓練、もう1つは、クリティカル運用となるタッチダウンを含めた降下運用に対し、実時間で人の動き等を確認するRIO(Real-time Integrated Operation)訓練です。LSS訓練は2017年度前半に実施し、2017年度後半から2018年度初めにかけてはRIO訓練を実施しております。

RIO訓練では、主要コンポーネントの地上モデルと、リアルタイムダイナミクスシミュレータをベースとしたHIL(Hardware In the Loop)系を構築し、更に、新たに開発した画像生成装置と遅延模擬装置を組み合わせて訓練を実施しております。「はやぶさ2」では、探査機が撮像した画像を地上で処理して、降下の制御を行うフェーズがあるのですが、画像生成装置が、撮像時探査機位置と姿勢に基づいて、リアルタイムに小惑星画像を作成することができ、このような地上(人間)を含めた制御の訓練が実現可能となっております。また、降下運用では探査機と地球との距離が非常に離れており、通信の遅延が発生します。これを遅延模擬装置によって実現することで、系に時間遅れが発生し、よりリアルな訓練ができるようになりました。

RIO訓練も、最初のうちは探査機を小惑星表面に近づけることもなかなかできなかったのですが、訓練を始めて数カ月後には精度良く降下させることができるようになりました。この訓練で、人間が運用に慣れることはもちろん、探査機の「クセ」をつかむことが非常に重要だと認識しました。訓練なので実機ではないですが、人間と探査機の人馬一体の運用に近づくことができた気がします。本番でも良い成果を挙げたいと思います。

プロジェクトエンジニア 佐伯 孝尚(さいき たかなお)

「はやぶさ2」の運用訓練で使った仮想の小惑星リュウグウ

「はやぶさ2」の運用訓練で使った仮想の小惑星リュウグウ。プロジェクトチームでは、「リュウゴイド(Ryugoid)」と呼んでいる。3Dモデルで4億ポリゴンに近い高精細なものである。

【 ISASニュース 2018年4月号(No.445) 掲載】