近日参上「はやぶさ2」
〜リュウグウの乙姫殿、お宝をいただきます。〜

●ついにこのときが

2014年5月のISASニュースの中で、「はやぶさ2」の搭載型小型衝突装置(SCI:Small Carry-on Impactor)のことを紹介させていただきました。その頃はまだ打上げ前で、実際の運用はまだまだ先のことだと思っていましたが、あっという間に時が過ぎ、ついにSCIの運用が間近に迫ってきました。私自身も、SCIの開発担当から、探査機システム全体をみる立場に変わりました。

探査機運用の立場で言わせていただくと、このSCIは非常に"厄介"なものです。SCIは衝突体を加速するために爆薬を使用していますが、その威力が"半端ない"ため、爆薬を起爆すると、衝突体が飛び出すとともに、SCI全体が破壊され、ありがたくない多くの破片が四方八方へものすごいスピードで飛び出してきます。この破片に当たってしまうと、探査機そのものを喪失する危険性があります。そのため、探査機は、SCIを小惑星上空で分離した後に、破片が小惑星そのもので遮蔽されるであろう小惑星の裏の"安全領域"に、全速力で退避する必要があります。この退避は、小惑星にぶつかることなくその脇をスレスレで通り過ぎ、数キロメートル先に逃げるもので、極めて高い位置・速度制御精度が要求されます。この退避の前に行うSCIの分離についても、非常に高い精度で探査機の位置・速度の制御が要求されます。精度が悪いと、SCIが小惑星表面に落下してしまったり、衝突体が小惑星に当たらないということが起こり得ます。このように、SCI自身が正しく動作するとともに、探査機側についても極めてアクロバティックで正確な運用が求められます。

このような探査機にとっては危険な運用が目の前に迫ってきており、緊張感が高まってきました。色々な所で言っていますが、小惑星にクレータ(穴)をあける前に、私の胃に穴があきそうですが、その前にこの困難な運用をやり遂げられるよう、チーム全体で最後まで準備をしっかり行いたいと思います。

「はやぶさ2」プロジェクトエンジニア 佐伯 孝尚(さいき たかなお)

「はやぶさ2」の衝突装置(SCI)

中央が「はやぶさ2」の衝突装置(SCI)。種子島宇宙センターにて「はやぶさ2」PAF結合作業中に撮影されたもの。

 

●カプセルと帰還準備

タイトル「近日参上:リュウグウの乙姫殿、お宝をいただきます」は、浦島太郎より石川五右衛門感満々ですが、カプセルの役目は言わずと知れた最後のフェーズ、回収したリュウグウのサンプルを秒速約12 kmの高速地球再突入における過酷な空力加熱から護りつつ、無事に地上まで届けることです。玉手箱を開けると煙もくもく、あっという間に100年の時が流れてしまう「浦島太郎」。揮発気体を含むであろうサンプルにそのようなリーク(漏れ)が無いよう、「はやぶさ2」カプセルには初号機の基本設計を踏襲しつつも、いくつかの改良が加えられ、より信頼度が向上しています。例えば、パラシュート開傘トリガーのタイマーの冗長性を向上させる改良などです。軌道飛行中の今すべきことは、いかに母船から分離して飛ばすかを、リュウグウからの帰還計画、着地点誘導を反映して正確に解析し、回収計画に反映すること、現地政府から着地許可を得ることです。母船ではタッチダウンに向けて着々と計画が進められている今日この頃、まだまだ先と思っていても、実際に帰還までになすべき項目は、結構スケジュールぎりぎりであることに気づき慌て始めます。軌道の摂動を考慮した詳細解析に、カプセルの熱環境(今度は斜め前から太陽光が当たる予定)を考慮して飛行姿勢と時間の関係の整理。パラシュート非開傘の場合も、再突入時の火の玉から軌道を再構築して着地点を求めること、開傘/非開傘によらずレーダーにて飛行中のカプセルを捕捉することなど、あってはならないことですが、不測の事態への対応策も、種々の機関と協力の下に進めています。

帰還軌道上、近地点近くでのみ再突入が可能ですので、そちら側の半球での回収ということになりますから緯度は必然と決まってしまいますが、経度には自由度があり、昨年来いくつかの候補点を調査して回り、ほぼここぞと思う所で詳細調査・調整が開始された昨今です。近々皆様にもお話しできるようになると思いますので、その節はどうぞご協力よろしくお願い致します。

「はやぶさ2」リエントリカプセル担当 山田 哲哉(やまだ てつや)

回収の可能性調査中の平野

3,000メートル級の台地から見下ろす、回収の可能性調査中の平野。着地点分散楕円のサイズを完全に包含する、安全な場所があるかが鍵。

【 ISASニュース 2019年1月号(No.454) 掲載】