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ISASコラム

再び宇宙大航海へ臨む「はやぶさ2」
第4回

衝突装置

「はやぶさ 2」プロジェクト 衝突装置担当 佐伯 孝尚
(ISASニュース 2014年5月 No.398掲載)

 「はやぶさ2」はその名の通り、あの感動的な地球帰還を果たした「はやぶさ」の後継機であり、大きさや形状を含め、その多くの部分が「はやぶさ」と類似の設計となっています。これは、「はやぶさ」を成功させた諸先輩方から、「はやぶさ2」を開発する我々が多くの技術を引き継いでいることを示しています。一方で、「はやぶさ」から変更・改良された部分も多々あります。また、「はやぶさ」にはなかった新規機器もいくつか搭載されています。その一つが、搭載型小型衝突装置(SCI:Small Carry-on Impactor)です。

 SCIは小惑星表面に人工のクレータをつくるための機器です。「はやぶさ」は小惑星イトカワを詳細に観測し、イトカワがラブルパイル天体(破砕集積体)であることを突き止めましたが、その構造を調べる直接的な観測が行われたわけではありません。そこで「はやぶさ2」では、SCIを使用した宇宙衝突実験を行うことで、小惑星の内部の構造の直接的な観測や内部物質のサンプリングなど、より踏み込んだサイエンスを行うことを重要なミッションの一つとしています。

 衝突によって大規模な人工クレータをつくるためには、大きな衝突速度が必要になります。NASAのDeep Impactミッションは、惑星間を飛行する速度をそのまま衝突に利用して巨大な衝突速度を実現しています。しかし、観測機自体は天体をすぐに通過(フライバイ)してしまうため、観測は限定的なものになっていました。一方「はやぶさ2」は、小惑星を詳細に観測するランデブーミッションです。そのため、人工クレータをつくるためには、衝突体を相対速度ゼロの状態から高速に加速する必要があります。Deep Impactと比べてこの加速の手間が増えますが、クレータやその生成過程を詳細観測することができるのが大きな利点となっています。

 前述の通り「はやぶさ2」のSCIは、衝突体を高速に加速するための機器ですが、どのように加速するかが高い技術的ハードルでした。通常、宇宙機の加速には、固体モータや液体推進系のように燃料を噴射して加速する方法が取られます。この方法では加速時間がかかり加速距離も大きくなるため、小惑星に衝突させるには誘導装置や姿勢制御が必要になり、システムが大規模になってしまいます。そこで、爆薬を使用して衝突体の加速を行うことにしました。SCIには爆薬部といわれる特殊な成形炸薬が搭載されています(図1左)。円すい状の金属ケースの中に爆薬が充填され、ケース前面にはライナと呼ばれる皿状の金属が装着されています。この部分が爆薬によって加速され、衝突体となって飛翔します。図1右は爆薬部の実スケールモデル試験において実際に飛翔したライナの様子を示しています。ライナの速度はおよそ2km/sですが、その速度になるのに1/1000秒ほどしか要しません。これにより、長い加速距離が不要となり、シンプルなシステムでも小惑星に衝突させることができるようになっています。図2は爆薬部実スケールモデルの試験の様子を示しています。衝突体が真っすぐ飛翔している様子が分かると思います。

図1
図1 衝突装置爆薬部
左:円すい形の構造体の中に爆薬が充填されている。爆薬の力によってライナを前方に高速で射出する。右:飛翔するライナの様子。速度はおよそ2km/s。

図2
図2 爆薬部試験の様子

 試験が派手な爆薬部に目が行きがちになりますが、SCIにはそれ以外にも重要な技術が多く含まれています。その中でも特に、正確な分離は、ミッションの成否を握る大事な部分です。どんなに衝突体が真っすぐ飛翔しても、衝突体の方向を正確に小惑星に向けないと意味がありません。また、分離時の速度誤差もとても小さく抑えた分離を実施しないと、小惑星には命中しません。そのため、数多くの分離試験を実施してきました。これ以外にも多くの試験を実施し、苦労しながらも何とか開発を進めてきました。厳しいスケジュールの中、現在ほぼ開発が完了する状態までに至ったのも、関係メンバーおよび関連メーカーの皆さまのおかげです。この場を借りてお礼申し上げます。2019年のSCI運用はまだ先ですが、自信を持って臨めるよう今後も準備を進めていきます。

(さいき・たかなお)