近日参上「はやぶさ2」
〜リュウグウの乙姫殿、お宝をいただきます。〜

●DCAM3見参!

私が開発を担当した機器のなかで最後に登場することになるのが分離カメラ「DCAM3」です。(なぜ「3」かは他記事を参照ください) IKAROSで開発された分離カメラの技術が、「はやぶさ2」へのDCAM3搭載を実現させました。

DCAM3は小型衝突装置「SCI」の実験を直接観測する唯一の機器で、その分、期待が大きく開発時はかなりのプレッシャーでした。開発時の苦労話はここでは割愛しますが、理学的な要求に苦労しながらも、新しく、より挑戦的なミッションに挑むということにやりがいと楽しみを感じながら、ようやく産み出した機器です。理工学一体となって挑戦する機器の良いモデルケースになったのではと思っています。

さて、本題のDCAM3ミッションです。SCIを分離した後、「はやぶさ2」はリュウグウの横1kmくらいのところを通りながらリュウグウの影に隠れるよう退避します。退避中、「はやぶさ2」がリュウグウを真横から見るようなタイミングでDCAM3を分離し、慣性空間でゆっくり上昇するようにDCAM3だけを残してきます。

SCIが作動する5分前からDCAM3内に搭載されている2種類のカメラで観測を開始し、低解像度の画像を1秒に1枚、高解像度の画像を数秒に1枚の頻度で、「はやぶさ2」本体までデータを無線伝送します。DCAM3は1次電池しか積んでいないので、電池が尽きるまでがミッション期間で、設計上は3時間以上動作できます。

低解像度のカメラはアナログ系と呼ばれていて、カメラ自身の技術はIKAROSのDCAMとほぼ同一ですが、デジタル系と呼んでいる高解像度カメラは、理学観測のために新規に開発したシステムで画質の良い画像が期待できます。素晴らしい画像を撮ってくれることを、私自身も楽しみにしています。

リュウグウにクレータができる瞬間をDCAM3で撮れたら、それで某有名学術誌の表紙を飾れる!と理学メンバーが意気込むくらい、工学的に面白いだけでなく理学的にも非常に期待のかかったミッションです。この期待に応え、一緒に開発したチームのみなさんの夢を叶えられるよう、残り期間はわずかですが、しっかりと準備を進めたいと思います。

私自身は、DCAM3の成功によって、DCAMシリーズがどんどん発展し、将来のミッションで楽しく素晴らしい成果を出せることを夢見ています。勝負の年となる今年、まずはDCAM3を必ず成功させます。

「はやぶさ2」DCAM3担当 澤田 弘崇(さわだ ひろたか)

図 完成したDCAM3を前に記念撮影

完成したDCAM3を前に記念撮影。向かって左が筆者、右は神戸大学 小川 和律氏。

●乙姫様からの玉手箱の受け入れ設備

来年のことを言うと鬼が笑うといいますが、来年の暮れの話をします。

「はやぶさ2」探査機は2020年の暮れには小惑星リュウグウのサンプルが入った玉手箱を地球に持ち帰る予定です。玉手箱をむやみに開けてしまうと良くないので、相模原キャンパスに専用の受け入れ設備を準備しており、その施設をキュレーション設備と呼んでいます。クリーンルームとクリーンチャンバー(図)からなる「はやぶさ2」用のキュレーション設備が、昨年完成しました。

何故そんなものを準備しているかですが、リュウグウのサンプルを調べる際に地球の物質による汚染(コンタミネーションと言っています)を避ける必要があるためです。リュウグウのサンプルには水や有機物や鉱物が含まれていると考えられており、地球の水や有機物や鉱物と比較して調べることで、我々の地球や生命の起源や進化について新しい知見が得られます。その分析の精度や確度を高めるためには、極力地球の物質によるコンタミネーションを防ぐことが重要なのです。

JAXAでは「はやぶさ」による小惑星イトカワのサンプルの受け入れ実績がありますが、「はやぶさ」用のキュレーション設備は現在も稼働中で分析研究も続いており、「はやぶさ2」用に独立した設備を新しく準備する必要がありました。新しい設備は、「はやぶさ」の経験を活かして、より使い勝手の良いものを構築することができました。現在はサンプルのハンドリングツールや初期観察用の装置の開発を行っており、来年度から設備の運用リハーサルを行い本番に備えていく予定です。

リュウグウの乙姫様からの玉手箱を必ず地球に持ち帰り、来年の暮れには笑顔で玉手箱が開けられることを願っています。

「はやぶさ2」キュレーション担当 安部 正真(あべ まさなお)

図 「はやぶさ2」用新クリーンルームに設置された新クリーンチャンバー

「はやぶさ2」用新クリーンルームに設置された新クリーンチャンバー。

【 ISASニュース 2019年2月号(No.455) 掲載】