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宇宙科学の最前線

MAXI(マキシ)が見張った5年間のX線宇宙 理化学研究所 MAXIチーム 専任研究員 三原建弘

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全天X線監視装置MAXI

 国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟の外、真空の宇宙空間に、全天X線監視装置(MAXI)が設置されている(『ISASニュース』2009年11月号)。MAXIは理化学研究所が提案した日本の装置で、2009年に若田光一宇宙飛行士により取り付けられた。以来、92分ごとにX線宇宙を見張っている。X線宇宙は変動が激しい。X線新星(中性子星やブラックホール連星など)が現れたり、X線天体が不規則に増光・減光を繰り返したりする(2011年2月号に詳しい説明)。MAXIはその強度変動を記録し、ガススリットカメラ(GSC)の解析結果は4時間ごとにMAXIホームページ(http://maxi.riken.jp/)から公開されている。それまでのX線全天モニターであったRXTE衛星の全天X線モニター(ASM)が2011年末に運用停止してからというもの、MAXIはX線帯で世界唯一の全天モニターとして活躍している。

 リアルタイム接続中の場合、データは、追跡・データ中継衛星(TDRSS)─NASA─筑波宇宙センター経由で理研まで10秒程度で到着する。筑波のMAXI室では、新星発見プログラム「ノバサーチ」が常時、新星出現を監視していて、確度の高いものは自動速報する。確度の低いものは当番の携帯電話にメールで知らせ、当番はデータチェック後、本物であれば国際天文電報(ATel)やガンマ線バースト速報(GCN)へ投稿する。5年間でATelには177編、GCNには65編を速報した。この間にMAXIは15個の新天体を発見した。その中には6個のブラックホール連星が含まれている。MAXIの新星発見の報を受け、世界中の天文学者が可視光やX線などの望遠鏡で追観測を行い、その正体を解明している。


X線全天画像と21世紀のX線カタログ

 図1はMAXIで得られた4.1年間のX線全天画像である。X線CCDスリットカメラ(SSC)の低エネルギー画像は赤色で表されていて、はくちょう座ループ(網状星雲)や、ほ座超新星残骸(ほ座SNR)が、広がった赤い丸として目立っている。北銀河電波ループ(North Polar Spur)も淡い赤色で中心から上方に伸びている。はくちょう座の半径11度もの大構造、はくちょう座スーパーバブル(Cygnus Superbubble)は、約300万年前に単一の極超新星が爆発を起こした痕跡と考えられると、2013年3月号でお知らせした。

 我々は高銀緯(|b|>10度)の天域から7σ以上の有意度(強度約0.6mCrab以上)のX線天体を500個検出し、MAXIカタログ第2版として発表した。これは1980年代のHEAO-I衛星以来となる2〜10keV帯での無バイアス全天カタログで、史上最高感度である。検出された活動銀河中心核(AGN)の総数はほぼ同じであったが、個々のAGNは強度変動のため半数程度が入れ替わっていた。いわば「21世紀のX線天体カタログ」となった。


図1 MAXIで得られたX線全天画像(銀河座標)
図1  MAXIで得られたX線全天画像(銀河座標) [画像クリックで拡大]
4.1年間のデータを使用した。明るさはX線の強さを、色はX線のエネルギーを表す。赤は低エネルギー(0.7〜4keV)、緑は中間(4〜8keV)、青は高エネルギー(8〜16keV)のX線である。X線星には黄色や青色の星がある一方で、赤色では大きく広がった構造もあることが分かる。J番号はMAXIが発見したブラックホール天体。数字は赤経・赤緯を表す。天体名としては、その前に「MAXI」が付く。

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