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宇宙科学の最前線

柔らかい大気圏突入機の実現に向けて 〜シイタケ型実験機はいかにしてつくられたか〜 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授 鈴木 宏二郎 / 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 助教 山田和彦

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観測ロケット実験は中間試験

 さて、2012年8月に観測ロケットS-310-41号機によって、柔軟エアロシェルの大気圏突入実証試験が行われました。この試験は、これまでの研究開発の一つの集大成と位置付けており、将来、このシステムを実際に大気圏突入機に応用する際に必要な要素がほとんど含まれている非常に重要な試験です。例えば、エアロシェルをコンパクトに収納する方法、無重量高真空下でエアロシェルを確実に展開する手法、ロケットから実験機を分離する機構、大気圏突入飛行中に空気力で姿勢を安定させる設計、大気圏突入時の空力加熱に耐える膜面材料の選定、飛行中の空気力に対してつぶれない浮き輪の設計、衛星通信を使った着水位置の特定、などが挙げられます。観測ロケットでの飛行試験自体はあっという間なのですが(約25分間の飛翔でした)、これまで長年積み上げてきたものが正しかったかどうかが一目で判断されてしまう、いわば、この技術開発における中間試験のようなものです。

 図3は、この試験の最も重要な結果である実験機の再突入軌道を示したものです。横軸が速度で、縦軸が高度を示しています。プロットがフライトデータ、青線が事前に計算で予測した軌道です。フライトデータと予測軌道はよく一致しており、柔軟エアロシェルは想定していた減速性能を発揮したことが分かります。また、図の中には、柔軟エアロシェルがない場合(従来型の大気圏突入機を想定)の予測軌道を赤線で示していますが、これと比べると柔軟エアロシェルは期待通り、より高高度で減速できていることが分かります。その分、空力加熱も緩和できていると考えており、この新しい大気圏突入機の能力を示すことができました。このことからは、ひとまず、この試験は合格だったといってよいでしょう。

図3
図3 観測ロケット実験における実験機の再突入軌道
プロット:フライトデータ
青線:実験機の予測軌道
赤線:エアロシェルのない場合の予測軌道


結び

 私たちが夢見ていたものを形にすることができました。では、これを何に使ったらいいでしょうか。形が折り畳み傘のようなものですから、ペネトレータ(地面に高速でぶつかってそのまま潜り込む地中探査機)を芯にして火星探査機をつくったら面白いかもしれません。「大気圏突入機は頑丈で硬いもの」という常識を捨てると、さまざまなアイデアが出てきます。

 これまで研究開発を進めるに当たり、2005年度以来のJAXA宇宙工学委員会戦略的研究費をはじめ、宇宙科学研究所大気球実験室や観測ロケット実験室など多くの方々から支援と励ましを頂いています。ここに感謝の意を述べるとともに、「大気圏突入はシイタケ型がいいねえ」と言ってもらえるよう、今後も全力を尽くして研究開発を進めていきたいと思います。

(すずき・こうじろう、やまだ・かずひこ)



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