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宇宙科学の最前線

柔らかい大気圏突入機の実現に向けて 〜シイタケ型実験機はいかにしてつくられたか〜 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授 鈴木 宏二郎 / 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 助教 山田和彦

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開発における風洞の役割

 さて、図1にあるように、我々が開発を進めている柔軟エアロシェルは、中央の金属製のカプセルのまわりに、空気ブレーキとなる円錐状の薄膜が取り付けられており、その膜に働く空気力をリング状の外枠で支える構造となっています。前述の気球実験において、このような形の柔軟エアロシェルが安定して飛行できるという基本的な部分は確認できました。しかし、本当に大気圏に突入するものをつくるとなると、越えなければいけないハードルは、まだ多くあります。例えば、大気圏突入時の空力加熱に耐えることができるのか、空気の力で壊れないのか、また、より高速でも安定に飛行できるのか、などの疑問に答えなければなりません。

 これらの課題を解決するためになくてはならない強力なツールが、風洞です。大気圏突入機は、空気の力で減速しながら飛行するので、飛行中に受ける空気力を正確に理解することは非常に重要です。しかも、大気圏突入時の超高速飛行(秒速8km)から、着陸直前の低速降下(秒速7m)まで、とても広い範囲の速度で飛行するので、それらすべての速度領域について調べる必要があります。一つの風洞でつくり出すことができる速度の範囲は決まっているので、すべての速度域をカバーするために、さまざまな風洞を駆使して、その特性を理解し設計を進めていきます。

 利用法はこれだけではありません。高温気流をつくることのできる風洞では、膜材料の空力加熱への耐性試験を行います。また、強度試験にも利用できます。出来上がったエアロシェルに実際に風を当てて、どの程度の空気力に耐えることができるのかについて調べるのです。現在の設計では、軽量化のために外枠部分にインフレータブル型を採用しています。インフレータブル型とは、袋状の膜の中にガスを入れることによって形状を維持するものです。要するに外枠に浮き輪を用いていると思ってください。最近では、大型の風洞を使って、直径2.5mの浮き輪状の外枠を取り付けた模型の強度試験も行っています。

 このように、風洞試験はこの飛行体の開発に欠かせないものです。図2には、これまでの風洞試験に用いてきた模型の一部を紹介しています。

1)実施年 2)使用風洞 3)速度 4)模型サイズと形態 5)目的
図2 図2
1) 1999〜2000
2) 超音速風洞(JAXA 相模原)
3) マッハ数 3.0(秒速 600m)
4) 5cm×3cmのゴム膜
5) 基礎研究(超音速気流中での柔軟物の挙動の理解)
1) 2003〜2010
2) 遷音速&超音速風洞(JAXA 相模原)
3) マッハ数 0.3〜4.0(秒速100〜700m)
4) 直径10〜15cm金属枠,布製エアロシェル
5) 広範囲の速度域での空気力測定
図2 図2
1) 2008〜2011
2) φ 1.27m 極超音速風洞(JAXA 調布)
3) マッハ数 9.5(秒速 1.3km)
4) 直径16cm 金属枠,耐熱布製エアロシェル
5) 耐空力加熱性能確認 極超音域での空気力測定
1) 2012.8
2) 6.5m × 5.5m 低速風洞(JAXA 調布)
3) 秒速5〜17.5m
4) 直径 2.5m インフレータブル型エアロシェル
5) 耐空力荷重の構造強度試験 低速度域での空気力測定
図2 これまでに風洞試験に用いてきた模型の一部


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