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宇宙科学の最前線

「あかり」による中間赤外線 全天サーベイ観測 名古屋大学大学院 理学研究科 GCOE研究員 石原 大助

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 日本初の赤外線天文衛星「あかり」による、中間赤外線での全天サーベイ観測(図1)は、どのようにして実現できたのか、今後どのような研究に発展していくのかを、一例とともにご紹介します。

図1
図1 「あかり」の波長9μm帯での全天画像(上)と検出点源の銀河座標での分布
青が9μm帯天体、赤が18μm帯天体を表す。


赤外線で宇宙を観測するということ

 赤外線は波長2〜200μm(マイクロメートル)の、人間の目で見える可視光(波長0.5μm程度)と比べると波長の長い電磁波です。赤外線で観測する対象は、究極的には宇宙のはじまりと生命のはじまりです。宇宙は膨張しており、遠くの銀河ほど速い速度で遠ざかっています。このため、遠く(昔)の銀河から来る光は赤方偏移が大きくなって波長が伸び、赤外線領域で捉えることができます。また赤外線では、広い意味での惑星や生命の材料、つまり宇宙空間に漂っている、可視光では見えない固体粒子(塵)や有機分子からの熱放射や輝線を捉えることができます。

 27年前、アメリカ・イギリス・オランダは共同で、赤外線天文衛星IRASを打ち上げました。赤外線で初めて全天を観測し、惑星系形成の手掛かりや赤外銀河など宇宙観を変えるさまざまな新発見をもたらしました。「あかり」は、その当時より優れた感度と空間分解能で、全天の赤外線データを塗り替え、IRAS時代の 「発見」をより多数の検出サンプルを用いた包括的な研究へとつなげています。


赤外線天文衛星「あかり」

 「あかり」は口径68.5cmの望遠鏡を搭載し、焦点面には波長2〜26μmをカバーする近・中間赤外線カメラ(IRC)と、波長50〜180μmをカバーする遠赤外線サーベイヤ(FIS)の2種類の観測装置を搭載しています。望遠鏡と焦点装置は、液体ヘリウムと冷凍機によって6K(約マイナス267℃)まで冷却して使用します。

 「あかり」の軌道は高度700kmの太陽同期極軌道です。衛星は昼と夜の境を飛び続け、太陽電池パネルは常に昼間(太陽)を見て、望遠鏡は常に地球と反対方向の夜空を見ます。軌道面は1年の周期で少しずつ地軸に対して回転するので、望遠鏡は半年で全天を見ることができます。もともとの計画では、この軌道を利用しFISで遠赤外線全天サーベイを完遂した後に、主にIRCで天文台型観測の運用をする予定でした。しかし、サーベイ観測中にIRCも活用すれば、中間赤外線でも全天にわたって天文学的に有用なデータが取得できることになります。私が、この中間赤外線全天サーベイ実現に向けて模索を始めたのは、衛星も観測器もすべて設計終了した後でした。


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