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宇宙科学の最前線

小天体研究を通した太陽系の理解〜地上観測研究と隕石分析研究の橋渡し〜

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冥王星と小惑星

 2006年の国際天文学連合(IAU)の総会で、冥王星がいわゆる「惑星」という定義から外される決議が行われ、マスコミなどを通して多くの人々にそのニュースが届きました。もちろんこれは、冥王星が何か悪いことをしたわけではなく、我々の太陽系に対する理解が進み、“太陽系に多く存在する「太陽系小天体」の代表格として、冥王星を認識し直す方がよい”、と多くの科学者が判断したことによるものです。
 「太陽系小天体」の代表格の呼び方については、「準惑星」などが考えられていますが、これまでは「惑星」以外の太陽のまわりを公転する小さな天体の呼び名は「彗星」と「小惑星」しかありませんでした。
 最初の「小惑星」は1801年に発見され、現在までに40万個近くが発見されています。現在では、水星軌道の内側から冥王星軌道の外側まで、太陽系の全領域にわたって分布していることが分かっています。


小惑星の物質科学的研究の幕開け

 太陽系の物質科学的な研究は、これまで主に隕石の研究によって進められてきました。隕石の物質分析は地上の研究設備で詳細に行うことができ、その形成年代や形成環境などを調べることができます。我々が現在得ている太陽系の起源と進化に関する情報の多くは、隕石分析研究によるものといってもよいでしょう。
 しかし、隕石は地上に落ちてきたものを使って調べているため、それが太陽系のどの場所から来たのかよく分かりませんし、そもそも地球に落ちてくる隕石が太陽系全体の情報を示しているのかどうかも不明です。こういった問題を相補的に解決しているのが、小惑星の地上観測研究です。
 1970年代になると、隕石は小惑星のかけらが地球に落ちてきたものだと考えられるようになりました。その理由は、小惑星の分光観測(細かい色の違いを調べる観測)が行われるようになり、隕石のデータとよく似た特徴を持つ、小惑星の分光観測データが明らかになったからです。
 小惑星の分光観測が進むにつれて、小惑星にはさまざまな特徴を持った天体があり、その特徴は太陽からの距離に応じて変化していることが分かってきました。つまり、太陽からの距離に応じて、小惑星の物質の傾向に違いがあるということです(『ISASニュース』2004年5月号、矢野氏の記事図4参照)。一方、隕石の研究から、隕石の形成年代の多くは太陽系の形成初期を示しており、小惑星の物質分布は太陽系の初期の物質分布を表しているのではないかと考えられるようになったのです。


小惑星と隕石の関係の謎

 小惑星の分光学的な特徴と隕石の物質的な特徴を結び付ける研究は、多くの研究者によって進められてきました。しかし、この研究には一つの大きな謎がありました。それは、小惑星に多く発見されているS型小惑星の特徴と、隕石で多く見つかっている普通コンドライトの特徴が、分光学的な観点で一致しないということでした。
 この問題は長い間議論され、いくつかの説が残りました。


(1) S型小惑星と普通コンドライトは違うもので、地上に落ちてくる隕石は太陽系の非常に偏ったサンプリングとなっている。
(2) 地上観測では隕石サイズの天体までは観測できておらず、小さな小惑星を観測すれば普通コンドライトに似た特徴の天体が見つかるはずだ。
(3) S型小惑星の表面は風化されていて、その風化していない部分が普通コンドライトと同じ特徴を持っている。

などです。この問題を解決するには、探査機が実際にS型小惑星に行って、確かめる必要がありました。


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