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宇宙科学の最前線

小天体研究を通した太陽系の理解〜地上観測研究と隕石分析研究の橋渡し〜

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イトカワの形成過程

 以上の結果をもとにイトカワの形成過程をまとめると、次のように考えることができます。
 イトカワの岩石物質は、太陽系形成初期に形成されました。その物質は、我々が手にしている普通コンドライトと同様の特徴を持っていたと考えられます。その後何度か天体の衝突を経験し、大規模な衝突によって飛び散った破片が再集積して現在のイトカワを形成しました。しかし、大規模な熔融や組成の分化は起きませんでした。その一方で、再集積する際にその破片同士の間には空隙が残り、全体密度の低い現在の姿になったのだと考えられます。
 イトカワ表面の色の違いや明るさの違いがいつできたかについてはまだよく分かっていませんが、接近写真などの様子から、明るい領域は暗い領域を構成する岩塊の下にあり、暗い岩塊が別の場所に移動して現れたのだと考えられています。イトカワのような小さな天体でも物質の移動が起きていることは驚きでした。地上観測だけでは、小惑星の表面はすべて積分された一つの点でしか見ることができませんでしたから、探査機が近づき空間分解して観測できたことによって、初めて分かったことなのです。


S型小惑星と普通コンドライトの関係は解決されたか

 長年の謎であったS型小惑星と普通コンドライトの関係については、現在は、「宇宙風化」という概念(前述の(3)の説)で説明されようとしています。小惑星のように大気のない天体の表面は、常に太陽風や微小隕石の衝突にさらされています。この状況を模擬する実験が地上でも行われていますが、このような作用(我々は「宇宙風化作用」と呼んでいる)によって、表面物質の分光データの特徴が変化することが、近年明らかになってきています。宇宙風化作用が小惑星上で起こっていることは、ニア・シューメーカ探査機の観測などによっても示唆されていましたが、「はやぶさ」のデータは高い空間分解能による観測でこのような作用の特徴を説明する、よりはっきりした証拠をイトカワの表面(図3)に見つけました。つまり、明るい領域と暗い領域の特徴が宇宙風化作用の特徴とよく似ていて、明るい領域は暗い領域より新しく、分光データの特徴も普通コンドライトの特徴により近いことを明らかにしたのです。
 我々の推定が本当に正しいかどうかについては、実際にイトカワの表面サンプルが採取されていて、無事地球に持ち帰ることができ、その試料が分析されるまで分かりません。しかし、探査機の近傍観測によって、これまで地上観測だけでは分からなかった多くのことが明らかになりました。



図3

図3-2
図3  上:イトカワの表面に見られる暗い領域の接近写真(ST_2539429953)
下:イトカワの表面に見られる明るい領域の接近写真(ST_2539467169)。中央の四角い枠は近赤外線分光器の観測領域

「はやぶさ」の次の探査

 「はやぶさ」は、S型小惑星についてさまざまなことを明らかにしてくれていますが、太陽系にはS型以外の小惑星もまだまだたくさんあります。次はS型小惑星より太陽から遠いところに多いといわれるC型小惑星、さらにその次にはその外側に多く存在しているD型小惑星、そして究極的には冥王星軌道の外側に存在する太陽系外縁天体、とシリーズ的に探査していくことで、太陽系全体の初期の物質分布情報などが分かると同時に、太系小天体そのものに対する理解ももっと進むでしょう。これまで地上観測と隕石分析研究で進められてきた太陽系の起源と進化についての研究(もちろん理論的研究やその他の実験的な研究もあるが)は、太陽系小天体探査機のもたらす新たな情報によって結び付けられ、総合的な理解をもたらしてくれることを、我々は期待しています。

(あべ・まさなお)



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