日本の大型パラボラアンテナも活躍中

「みお」のテレメトリやコマンドの授受は、第14回でご紹介した通り、MPO経由で行っています。そのMPOと地上との通信には、日本の大型アンテナも活躍しています。

日本のアンテナを使うときも、MPOの衛星管制運用者はドイツESOCにいます。コマンドはESOCからISASへ、さらにアンテナへと送られて、ようやくMPOへ送信されます。アンテナで受信したテレメトリは逆ルートでESOCへ。ちなみに、アンテナを遠隔操作しているのは筑波宇宙センターです。MPOとの通信には、JAXAの複数の拠点と部署が連携しているのです。

地上系担当 小川 美奈 (おがわ みな)

 

長野県にある臼田宇宙空間観測所(以下「臼田」という。)では、口径64mのパラボラアンテナが今日も深宇宙探査機と通信しています。

日本一大きな口径をもつ臼田64mアンテナは1984年にハレー彗星探査試験機・探査機「さきがけ」「すいせい」の運用のため整備され、現在に至るまで金星探査機「あかつき」や小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」といった様々な探査機との通信を担ってきました。水星に向かい航行しているMPOとの通信も臼田64mアンテナでサポートしています。

整備から長い年月が経った臼田64mアンテナは老朽化により、MPO、「みお」運用局の役目をまもなく後継局にバトンタッチします。

追跡ネットワーク技術センター 領木 萌子 (りょうき もえこ)

 

臼田の後継局として、臼田から直線距離で約1.2km程度離れた場所に美笹深宇宙探査用地上局を整備中です。アンテナの口径は臼田より一回り小さい54mですが、受信性能等の向上により、性能は臼田と同等となっています。

2015年から開始した整備も終盤を迎えており、2020年8月現在、現地では大電力増幅装置(SSPA)の整備中であり、インテグレーション試験、試行運用を経て、2021年4月以降、本格的な運用を開始します。

「みお」水星到着後、「みお」との通信の要となるので、シミュレータを用いた適合性試験もしっかり行う予定です。

深宇宙探査用地上局プロジェクトチーム 内村 孝志 (うちむら たかし)

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力強い臼田64mアンテナ(左側上下)と近未来感あふれる美笹54mアンテナ(右側上下)

 

日欧の違い(高圧ガス関係)

今回は、「みお」の地上支援としての高圧ガス周りを紹介したいと思います。

「みお」搭載の推進薬(超高圧の窒素ガス)及び気密試験用の超高圧のヘリウムガス、観測機器のセンサが酸化するのを防止するためのガスパージ用高圧窒素ガスという3種類の高圧ガスを用いています。

日欧の法律の違い

高圧ガスは、国内では日本の法律、欧州では欧州の法律で規制されます。それぞれの制定経緯もあって、国内の法律に適合していてもそのまますぐ欧州に、とはいかなく、色々と苦労をしました。違いの端的な例として、日本では「圧力」のみの規制に対し、米国も含めて欧州では「圧力×容積」というエネルギーの量で規制されています。ESA担当の方といっしょに法律の詳細まで検討し、日本から持ち込む機器を我々が使用することを認めてもらいました。

ボンベの口金の違い

高圧ガスとして、もっとも身近なのはガスボンベでしょう。これにも違いが有ります。中でも、もっとも困るのが接続先であるボンベの口金です。サイズやねじのピッチなどが異なれば絶対接続出来ません。しかも欧州域内でも、フランス、ドイツなど国ごとに口金が異なり、ボンベの調達先が重要になります。この辺り、ESAとは何年にも渡って調整して、もう大丈夫だろうと思いながらも試験前にオランダに行って、納入されたばかりのボンベと手持ちの口金を合わせると、噛み合わない事態に至りました(図参照)。超高圧ということで、ガスメーカーが別のガス種のボンベを転用したようで、ESAの担当者も把握しておらず、帰国して急ぎ対応する口金を製作し、試験にことなきを得ました。ガスパージ用の窒素ガスについても、口金に入れるパッキンに僅かな違いが有りましたが、これも同様に対処しました。

オランダではドイツ製でしたが、ギアナはフランス海外県なのでまた変わります。噛み合わないのでは、とドキドキしましたが、無事打上げまで運用できました。

他にも現地作業してみないと判らないことが多々有りましたが勉強になりました。

推進系担当 志田 真樹 (しだ まき)

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屋外一時保管中の気密試験用ボンベ(上段)と口金測定(下段)@ESTEC

【 ISASニュース 2020年8月号(No.473) 掲載】