MPOは欧州宇宙機関ESAが開発した水星周回探査機である(図1)。ESA はMPOに加え、MPOと「みお(MMO)」を水星まで輸送するための電気推進システムを搭載するMercuryTransfer Module( MTM)と、クルーズ中に「みお」を太陽光から熱防護し、MPOとの電気的・機械的インターフェースも提供するMMO Sunshield and Interface( MOSIF)も合わせて開発した。水星到着まではMMO、 MOSI F、 MPO、 MTMを結合したMercury Composite Spacecraft( MCS)となって一体で運用される。BepiColombo全体のミッションデザイン、MCSの組立・試験、打上げもESAの担当である。

図1 水星表面探査機(Mercury Planetary Orbiter: MPO)

図1 水星表面探査機(Mercury Planetary Orbiter: MPO) (©ESA/ATG medialab)

MPOは水星の表面地形、鉱物・化学組成、重力場の精密計測を目的としており、表1に並ぶ科学観測機器が搭載されている。MPOは3軸姿勢制御衛星で、水星表面を観測する科学機器を搭載する面を常に水星表面へ向け、ラジエータ(放熱面)には直接太陽光が入射しないように制御される。ラジエータは1面だけで、ラジエータ以外の面は耐熱高性能断熱材(HTMLI)で覆われている。MPOは近水点高度480km、遠水点高度1,500kmの極軌道を周回するため、水星表面からの赤外線(水星赤外)による熱入力が極めて大きい。このため、MPOのラジエータは、MPO内部の熱を宇宙空間に放熱し、水星赤外は反射して熱入力を抑える特殊な構造を有しており、アリアン5型ロケットのフェアリングに入る最大の大きさになっている。MPOの内部搭載機器からラジエータまでの熱輸送には、約100本ものアンモニアヒートパイプが用いられている。HT-MLIは水星周回における厳しい熱環境(最大で地球の11倍にも達する太陽光、水星による反射光、最大で地球の54倍にも達する水星赤外)から熱防護する特別仕様である。HT-MLIの最外層はセラミック繊維の布とチタン箔でできていて、熱がMPOの内部に入らないように最終的に手縫いで隙間無く仕上げられる。また、多層断熱材の4層構造になっていて、断熱性能が最大限高められている。MOSIFやMTMの分離に伴って生じる開口部にはシャッターが設けられ、細部まで極限環境からの熱入力を排するよう設計されている。

表1 水星表面探査機の観測機器

表1 水星表面探査機の観測機器

MPOの太陽電池パネルも水星の極限環境に耐えるよう特別に開発されたものである。215℃もの高温にも耐えるように設計されているが、水星周回軌道上では必要な電力を発電しつつ、この許容温度を超えないよう太陽電池パネルの方向をオンボードで制御する。水星到着までのクルーズ中の電力はMTMから供給されることになっており、MPOの太陽電池パネルは、MPOがMTMから切り離されるまでの間は,太陽電池としての性能劣化が最小限で済むようにほぼ太陽光に平行に制御される。

MPOと地球との交信は高利得アンテナ(HGA)、中利得アンテナ(MGA)、低利得アンテナ(LGA)を用いて、X-band(Uplink/Downlink)とKa-band(Downlink)で行われる。アンテナも厳しい熱環境に晒されるが、特別に開発された白色セラミックコーティングにより、最高温度は550℃に抑えられる設計である。

MPOは打上げ後からMCSの制御を司っている。水星到着後、MTMを切り離した後は、2液22ニュートン級化学推進系でまず「みお」の観測軌道に入り、「みお」を切り離した後にMOSIFを切り離し、次いでMPOの観測軌道に入る。観測期間は1地球年+オプション1地球年を予定している。

「みお」プロジェクトエンジニア 小川 博之(おがわ ひろゆき)

【 ISASニュース 2019年7月号(No.460) 掲載】