歴代所長:常田 佐久

宇宙科学研究所は、2003年10月の宇宙航空研究 開発機構(JAXA)の結成時に機構の4本部の一つである宇宙科学研究本部として発足し、2010 年4月に現在の名称に改称されました。わが国の宇宙科学研究は、糸川先生のペンシルロケットに始まり、宇宙理学と宇宙工学の研究者の密接な連携のもと、統合前の文部科学省宇宙科学研究所を中心とした全国大学共同利用の活動により、大きく発展してきました。この文部科学省宇宙科学研 究所の機能を受け継いだ当研究所は、わが国と世 界の飛翔体による宇宙科学の発展に大きな責任を負っております。

宇宙科学研究所の目的は、国内の大学・研究所、諸外国の宇宙機関と協力して、特徴あるすぐれた宇宙科学ミッション(科学衛星・観測ロケット・大気球)の立案・開発・飛翔実験・運用を一貫して行い、それによる学術研究を強力に推進することにあります。このために、当研究所には、星や惑星を含む宇宙の構造と進化を追求するために大気の外に出て観測を行う天文科学、月・惑星・小惑星の構造と起源を探り、太陽系の生い立ち、ひいては生命の起源にも迫る太陽系科学、そしてこれらの挑戦的活動を可能にし、新たな宇宙への可能性を切り開く宇宙工学の研究者がおります。

これまで、当研究所は、これらの宇宙理学と宇宙工学の研究者の密接な連携のもと、「はやぶさ」などの野心的な衛星計画を次々と提案実現し、国際的にも卓越した研究所として高い評価を受けてきました。今後も、所内の5つの研究系による活発な研究活動を基盤として、世界的にもユニークな理工学研究者の連携により、すぐれた科学衛星計画の創成と実現に邁進していきたいと考えています。

宇宙科学研究所は、大学共同利用システムにより運営されています。今後ますます大型化・複雑化する科学衛星計画を実現していくには、大学や外部の研究所がリードする観測装置の開発を支援し、それらの機関と一体となった科学衛星計画の実現を図り、また、宇宙科学研究所の外にもデータセンターやサイエンスセンターを構築することにより、宇宙科学のすそ野を宇宙研の外に一段と広げるとともに、日本全体の宇宙科学力を高める必要があります。

言うまでもなく、宇宙科学研究所は、JAXAの不可欠の一員であり、我々の宇宙科学研究の成果により、機構そして我が国の宇宙開発全体が大きく発展することを強く願っています。今日、科学衛星プロジェクトは、政治・経済・外交にさえ関わる巨大な国家的事業となっています。宇宙基本計画で表明された宇宙科学のあり方は、この状況を反映しており、我々はそれを真摯に受け止め、宇宙利用を含む我が国の宇宙開発全体の発展に貢献していく所存です。宇宙科学研究所は、機構と日本の宇宙開発が直面する広汎な課題に対して、学術研究の手法により貢献していくことのできる唯一の組織であり、シンクタンクとしても機構内外からの期待に応えて行くつもりです。

人類は、20世紀になって宇宙への扉を開きました。扉の外に顔を見せつつある新世界は、暗黒エネルギーや暗黒物質の存在、我々が宇宙で孤独な存在でないことを示唆する太陽系外で続々と見つかる惑星、そして、我が太陽系の惑星・衛星・小惑星が示す多様な姿等々、私たちの想像をはるかに超えた様相を呈しつつあります。21世紀は、人類が宇宙と生命の起源について、はじめて包括的な描像を得る世紀となるでしょう。この知の探索に、宇宙科学研究所は顕著な貢献をしていきたいと考えています。

2013年4月
常田 佐久