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宇宙科学の最前線

大気圏突入機の新コンセプト 宇宙飛翔工学研究系 助教 山田和彦

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卒業試験の課題は?

 我々は、この展開型エアロシェルの研究開発の卒業試験として、実際に宇宙(例えば宇宙ステーションの軌道)から少量の物資(1kg程度で、突入機の全体重量は15kg程度を想定)を持って帰ってくる乗り物をつくることを課題に定めました。この実験に成功すれば、小型衛星などで得られた成果を地球に持って帰る乗り物としても使えることになると考えています。宇宙ステーションから帰ってくることを想定すると、その大気への突入速度は秒速8km(観測ロケットの実験では秒速1.32km)になり、大気抵抗による加熱や加わる力は、観測ロケット実験に比べて格段に過酷なものとなります。

 そのような厳しい環境に耐えるためには、観測ロケット実験用に開発したエアロシェルをさらに進化させる必要があります。そのための大きな課題は二つあります。一つは重量をあまり増やすことなくエアロシェルをより大きく、より精度よくつくること、もう一つはエアロシェルの耐熱性能を向上させることです。これらは、卒業試験に臨むために最低限クリアすべき課題です。目標は、直径は2.5m、150kgの空気力に対して壊れることなく、100kW/m2程度の加熱に耐える柔軟なエアロシェルをつくることです。最後の加熱の条件がどれほどなのかを分かりやすく正確に表現するのは難しいのですが、表面温度が最大で1000℃程度の環境だと思ってください。つまり、表面が1000℃になっても空気が漏れない“風船”をつくるということです。


やわらかいけど頑丈なエアロシェル

 今、我々は、これらの課題を解決するための研究開発を進めています。図2は、直径2.5mの展開型エアロシェル試作品の風洞試験の様子です。エアロシェルの外周に取り付けられている浮き輪の形が12角形となっているのが分かると思います。これは、やわらかい材料で、きれいな立体形状をつくるために工夫したところです。

 この試作品を使って、実際にエアロシェルに風を当てて、空気力に対する強度を調べる試験を行っています。実験では、図2右上の写真のように、空気力を受けて膜面が引っ張られて富士山のような形に変形しながらもしっかりとエアロシェルの形を保つことができること、そして、大きな空気力を発生し再突入機を減速できることが確認できました。この試作品では、200kg以上の空気力にも耐えることが確認できています。ただし、想定以上の空気力をかけてしまうと、図2右下の写真のようにつぶれてしまいます。数百kgもの大きな空気力に耐えることができる構造なのですが、このようにつぶれる姿を見ると、やわらかいけど頑張って耐えているということを再認識します。このような試験を繰り返し、展開型柔軟エアロシェルの設計を洗練させていきます。


図2 大型(直径2.5m)のエアロシェルを使った風洞試験の様子
図2  大型(直径2.5m)のエアロシェルを使った風洞試験の様子 [画像クリックで拡大]

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