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宇宙科学の最前線

宇宙空間における粒子加速問題と木星磁気圏 惑星分光観測衛星プロジェクト/宇宙航空プロジェクト 研究員 吉岡和夫

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内部磁気圏への高温電子侵入の証拠を捉えた

 「ひさき」が捉えたイオプラズマトーラスの極端紫外データに対してスペクトル診断を適用した結果、外部磁気圏由来と考えられる高温電子が、徐々にその密度を減らしつつも、内部磁気圏の中にまで入り込んでいるという事実を世界で初めて突き止めました(Yoshioka et al. 2014、 Science)。

 イオプラズマトーラス近傍の磁力線とプラズマは、木星の高速自転とともに回転しており、強い遠心力(木星から離れる向きの力)が働いています。一方、トーラス中のプラズマは非常に高密度ですが、木星から離れるにつれて密度は下がります。つまり、トーラスを構成するプラズマには外向きの遠心力が働いているにもかかわらず、内側ほど重いガスがある状態になっているのです。これは、重力が働く中で、重い流体が軽い流体の上に乗っている状況と似ています。そのような状態では、軽いものは上へ、重いものは下へと移動する中で、複雑な対流現象(不安定性)を引き起こします。このような考えに基づくと、イオプラズマトーラスとその外側の領域の間では、(重力の代わりに)遠心力が駆動する不安定性がプラズマの流れを引き起こしているのではないか、という予想が成り立ちます。「ひさき」のデータから導かれた高温電子の分布は、このような対流が駆動する高速輸送を仮定すると、とてもよくつじつまが合うものでした。この結果は言い換えれば、高密度なイオプラズマトーラスがあるからこそ(つまり、イオがあるからこそ)、強力な磁場のバリアを破るほどの大規模な対流(不安定性)が誘発されることを示唆します。こうして侵入した高温電子は、さらに効率よく電子を加速する電磁波動現象を引き起こし、結果的に太陽系最強の木星放射線帯が形成・維持されている、と考えることができます。


これからの木星探査

 現在、世界ではJUNOとJUICEという二つの大きな木星探査ミッションが進行中です。

 JUNOは、2016年夏の木星周回軌道への投入を目指して航行中のNASAの探査機です。最接近時には4300km(木星半径の2/3以下)まで木星表面に近づきますが、一方で遠木点距離は木星半径の25倍と楕円の極軌道を取ります。そのため、特に木星表面の詳細な情報や、高緯度領域の様子が明らかになることが期待されます。また、磁気圏と大気の相互作用や、太陽風などの外的要因と磁気圏内活動の因果関係を理解するための重要な知見をもたらしてくれることでしょう。

 JUICEは、2022年に打上げが予定される欧州(ESA)主導の木星系探査計画です。エウロパ、ガニメデ、カリストという氷衛星の世界を、地下海における生命居住の可能性という課題を意識しつつ探査することが主目的です。これらの衛星は木星磁気圏の中にどっぷりとつかっていることから、またガニメデは固有磁場を持ち木星磁気圏の中にさらに独自の磁気圏を持つことから、プラズマ物理学的観点からの探査も非常に興味深いものです。

 このように、木星探査が充実しようとしている時代の端緒で、「ひさき」が木星磁気圏物理の理解を深める貢献をしたことは意義深いものであると思います。

(よしおか・かずお)

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