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宇宙科学の最前線

より高い空への挑戦 学際科学研究系 准教授 斎藤芳隆

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 今回飛翔させた気球にはもう一つ,重要な改良が加えられています。排気口です。上昇するにつれて気圧が下がるため,気球に詰められたガスは膨張し,気球はだんだんと膨らみます。密閉された気球皮膜を用いると,その体積以上にガスが膨張しようとするために破裂し,気球は降下してしまうのです。これを防ぐため,一般的な気球の尾部には排気口が取り付けられており,膨張したガスが排気されることで気球は浮力を失い,同一高度に滞在することができます。排気口を取り付けることは重量を増すことにつながり,高度記録を更新するには不利な試みです。しかし,気球の利用者の立場で考えれば,実験できる機会が上昇中に限られなくなり,最高高度に滞在しての実験も実施できるようになることは大きなメリットとなるでしょう。

 放球も新しい方法を取り入れました。スライダー放球装置とカラー(襟のこと。気球の下の方でガスが入っていない部分が広がらないように巻き付けておき,放球直前に取り外します)を使う方法を編み出し,事前の試験でうまく放球できることを確認してきました。これにより,風の条件に左右されず,より確実に放球できるようになりました。

 さまざまな開発結果と皆の熱意を詰め込んだ体積8万m3の気球の飛翔機会は,2013年9月20日に巡ってきました。気球の全長は81m,重量は36.7kg,荷姿を含めたつり下げ重量は4.5kgという構成です。薄曇りで,霧もなく,風もなく,絶好の放球日和に恵まれ,気球は図1のように順調に放球されました。先にお話ししたカラーで気球の膨らんでいるところを絞っているので,気球が広がらず,風の影響を受けにくくなっています。図2が気球高度の時間変化です。気球は順調に上昇し,無事,高度53.0kmを超え,高度53.7kmで水平浮遊に入りました。11年ぶりの高度記録の更新です。図3は搭載ビデオカメラから送られてきた映像で,気球がきれいに展開していることが分かります。右の方の構造が排気口です。ここからガスを放出する様子も観測され,以後,気球破壊コマンドにより穴を開けるまで12分間にわたり最高高度にとどまりました。


図1
図1 スライダー放球装置とカラーを用いた放球
膨らんでいる気球の根元がカラーで締め付けられているため,気球が広がらず,風の影響を受けにくくなっている。


図2
図2 気球の到達高度の時間変化
高度53.7kmに12分間にわたって滞在した。


図3
図3 搭載カメラで撮影された満膨張となった気球
右側の構造が排気口。

 今回の実験により当初のもくろみであった高度50km以上の中間圏に滞在できる飛翔体の誕生が確認できました。次は,最高高度に滞在できるようになったことを生かし,10kg程度まで搭載重量を増やした気球の開発を進めたいと考えています。オゾン観測だけでなく,より幅広い科学実験に利用していただきたいからです。もちろん,より高い空への挑戦も続けます。
(さいとう・よしたか)

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