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宇宙科学の最前線

 X線で白色矮星の重さを測る ASTRO-H プロジェクト研究員 林 多佳由

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X線で輝く白色矮星

 単独の白色矮星は恒星のころの余熱で光りますが、次第に冷えて暗くなり、最後には見えなくなります。しかし、ほかの星と近接連星を組むと状況は一変します。白色矮星は高密度であるため、表面の重力が非常に強くなります。従って、近接連星の相手の星(伴星)からのガスは、白色矮星へ落下する際に、温度に換算すると数億度にもなる莫大なエネルギーを獲得します。それが白色矮星を輝かせるエネルギー源になります。

 白色矮星へガスが落ちるとき、白色矮星の磁場が強い(10万ガウス以上。10万ガウスは地磁気の20万倍)場合、ガスは磁場に捕らえられます(図1)。磁場に捕まったガスは磁力線に沿って自由落下し、その速さは毎秒数千kmに達します。


図1
図1 強磁場白色矮星の近接連星の想像図
伴星からのガスが磁場に捕まり、磁力線に沿って白色矮星へ落下する。(C)Mark Garlick


 この落下速度はガスの音速を超えているため、ガス流は白色矮星表面の近くで「衝撃波」を発生させます。衝撃波とは、超音速で運動する物質のまわりにできる圧力や温度が不連続的に変化する波です。物質の運動の速さが音速に比べて十分に速いと、衝撃波へ流れ込む超音速のガスの運動エネルギーのうち4分の3が熱エネルギーへ変換されます。これを白色矮星へ落下するガスに適用すると、ガスは数億度にまで加熱され、原子は電離してプラズマになります。

 物質は温度に対応したエネルギー(波長)の電磁波で光っており、人間の体温は約40度なので赤外線、太陽表面は約6000度なので可視光、数億度のプラズマはX線で光ります。衝撃波で生成されたプラズマは、X線を放射することで冷えながら、白色矮星に落下します。逆に、電磁波のエネルギーから、それを放射している物体の温度を測ることもできます。

 すでに述べた通り、白色矮星に落下するプラズマの熱エネルギーの源は、白色矮星の重力です。重力は白色矮星が重いほど強くなるので、重い白色矮星に落下するプラズマほど高温になります。このように、白色矮星に落下するプラズマの温度はX線で測ることができ、その値から白色矮星の重さを推定できます。


X線による白色矮星の重量測定法

 強磁場白色矮星のプラズマは、衝撃波で生成された後、X線を放射しながら白色矮星へ落下します。私たちはこのプラズマ流からのX線のエネルギーに対する強度分布である、X線スペクトルの詳細なモデルをつくりました。以前から取り込まれていた白色矮星の重さの違いに加えて、プラズマ流の形とその流量の違いを新たに取り込んだのです。

 これまでのモデルではプラズマ流の形は円柱としていましたが、実際は磁力線に沿った形、つまり白色矮星に近づくほど細くなるラッパのような形が考えられます。このような形の流れでは、温度が下がる代わりに流れが速くなる作用が働きます。これは、川の流れが川幅が狭い所で速くなるのと同じです。また、白色矮星へ落ちるプラズマの単位面積当たりの流量は、伴星からのガスの量などによるためそれぞれの系で異なり、プラズマが冷める早さを決めます。そして、白色矮星の重さは、重力の強さを決めます。

 このようなより現実に近い条件のもと、物理学の法則である運動方程式、エネルギー保存則、質量保存則、状態方程式(圧力と密度の関係)の連立方程式を解くことにより、プラズマ流内の温度や密度の分布を得ます。得られた温度や密度分布からプラズマ流全体からのX線スペクトルを算出し、強磁場白色矮星のX線スペクトルモデルをつくりました。このモデルを観測データに適用して、白色矮星の重さと単位面積当たりのプラズマ流量を測定するのです。

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