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宇宙科学の最前線

ジオスペース探査衛星 ERGプロジェクト 太陽系科学研究系 准教授 高島 健/名古屋大学 太陽地球環境研究所 准教授 三好由純

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放射線帯と宇宙嵐の謎に挑むジオスペース探査プロジェクト

 この放射線帯の粒子変動と宇宙嵐のダイナミクスを解明するために、2015年度の打上げを目指して、ジオスペース探査衛星計画(ERG)が進められています。ERG衛星の軌道は、放射線帯の中心部分を直接観測できる楕円軌道に設計されており、約8時間で地球のまわりを一周します。図2にERG衛星の外観を示します。ERG衛星は、惑星分光観測衛星「ひさき」と同じくイプシロンロケットで打ち上げられる科学衛星で、合計9台の科学計測器が搭載されています。

 すでに述べたようにジオスペースには、6桁以上の広いエネルギー帯にわたるプラズマや粒子が存在しています。エネルギー階層間結合を理解するためには、広いエネルギー帯を計測することが必要不可欠です。ERG衛星は、12電子ボルトから20メガ電子ボルトにわたる広いエネルギー帯の電子の計測と、10電子ボルトから180キロ電子ボルトまでのイオンについて水素や酸素といったイオンの種類ごとの計測をします。これほど広いエネルギー帯を一つの人工衛星で計測するのは、世界的にもほとんど例がなく、日本ではERG衛星で初めて実現されます。

 これらのプラズマ・粒子計測器のうち、数十キロ電子ボルトのエネルギー帯の電子やイオン計測器は、日本で初めて開発され、人工衛星に搭載される技術です。さらに、ERG衛星が飛翔する放射線帯は、エネルギーが高い粒子が飛び交う過酷な放射線環境のため、人工衛星の運用や精密な科学計測にとってはとても厳しい環境です。ERG衛星では、このような強い放射線環境の中で、高精度の科学計測を実現するためのさまざまな技術が盛り込まれています。それらの新しい技術は、ERG衛星で実証され、将来の木星などのより放射線環境が厳しい場所での観測に活かされていくのです。

 また、ジオスペースに存在するさまざまなプラズマの波や電磁場を計測するための装置を紹介します。放射線帯の変動に関わる電場や磁場の変動は、広い時間スケール(周波数帯)に広がっています。ERG衛星では、直流から10メガヘルツまでの電場と、100キロヘルツまでの磁場の計測を実現します。

 これらのプラズマ・粒子、電場や磁場の観測器に加えて、ERG衛星には、世界で初めてとなる新しい装置、波動粒子相互作用解析装置が搭載されます。「内部加速」で重要となる、プラズマの波と電子とのエネルギー交換過程は、宇宙空間ではほぼ普遍的に起きていると考えられているにもかかわらず、エネルギーをやりとりしている時間が極めて短いために、誰もその現場を見たことがありません。ERG衛星では、日本独自のアイデアと技術によって、10マイクロ秒で電子を計測する技術を確立しました。この技術を用いて、世界で初めてプラズマの波と電子がエネルギーを交換する様子を直接計測し、エネルギーが高い電子が生まれてくる現場を見ようとしています。


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図2 放射線帯の中を観測するERG 衛星(想像図)
ERG衛星には合計9台の科学観測装置が搭載される。


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