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宇宙科学の最前線

宇宙と老化 学際科学研究系 教授 石岡 憲昭

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宇宙環境は酸化ストレスを上昇、蓄積させる!

 太陽放射や電磁放射線(例えばガンマ線など)は生体内でヒドロキシルラジカルなど活性酸素種(ROS)を発生させ、脂質の過酸化を引き起こす連鎖反応を開始させます。ROSは酸化ストレスの主要因で、細胞老化を誘導する原因となります。宇宙環境ストレスによるミトコンドリアでのROS増加に伴う結果とも考えられますが、確かに宇宙飛行したマウスの皮膚を用いたDNAマイクロアレイおよびqRT-PCRの分析結果は、抗酸化に関わる酵素類、特にスーパーオキシドアニオンを過酸化水素に変換するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)、過酸化水素を除去するカタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の遺伝子発現が有意に増加していました(図1C)。13日間の短期飛行では大きな差ではありませんでしたが、13週間の長期飛行マウスでの発現が大きく増加していました。さらに、グルタチオン転移酵素(GST)やNAD(P)Hキノン還元酵素(NQO1)、へムオキシゲナーゼ1(HO1)などの抗酸化酵素の遺伝子の発現も増加していました。これらは宇宙長期滞在における酸化ストレスの上昇と蓄積を意味し、細胞老化を引き起こす可能性が高いことを示しています。

宇宙環境は細胞周期に影響する!

 細胞は一定の周期に基づいて、分裂し増殖します。この周期を細胞周期といいます。細胞周期は、DNAが複製されるS期、細胞分裂の準備を行うG2期、細胞分裂のM期、そして分裂終了から次のDNA合成開始までのG1期です。これに静止期(G0期)が加わります。完全に細胞分化した細胞や一時的に分裂を停止した細胞はG0期に入っています。細胞周期が正常に進行しているか監視するチェックポイント機構があります。

 図1Cに示したように、長期間飛行によりp21やp16の遺伝子の発現が増加していました。p21は、チェックポイントの一つに関与するがん抑制タンパク質の一つであるレチノブラストーマタンパク質(Rb)のリン酸化を阻害して細胞周期のG1期からS期への移行を抑制します。さらに、短期と長期飛行で大きく発現上昇したGadd45gは、やはりチェックポイントで中心的役割を果たす酵素の一つCDK1を不活化し細胞周期のG2期の通過とM期の開始を阻害し、またp21を活性化します。よって、RbやGadd45gを介する細胞周期の抑制や停止が誘導されることになります。以上の結果は、宇宙環境は細胞老化を加速する可能性を強く示唆しています(図2)。

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図2 Gadd45g、Rbを介した細胞周期の制御と細胞老化


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