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宇宙科学の最前線

地震計で月・火星の内部を探る 東京大学 地震研究所 准教授 新谷 昌人

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 別の方法として、地震によって生じた「自由振動」を観測する方法があります。大きい地震が起こると地球全体が共鳴振動します。スイカをたたいてその音から熟し具合を判断するのと似ています。この方法では音の高さや音色、地震の場合は振動周期を地震計で測ればよいので、1台の地震計だけでも内部構造を推定できます。図1に地球および火星の自由振動の周期を示しました。地球の場合は大地震の際に最長約54分周期の振動が起こります。火星は地球の約半分の径なので周期は短くなり、図1では中心核のサイズと状態(液体・固体)によって自由振動周期が異なることが示されています。

図1
図1 地球と火星の自由振動の周期(分)
火星は中心核のサイズ(半径)と状態(液体・固体)が異なる場合の理論値(西川泰弘氏の計算による)


 ただし、大きい地震が起こらないと自由振動は観測できません。地球の場合はおよそマグニチュード(M)8以上です。月や火星の地震では残念ながら自由振動の観測は期待できません。しかし、火星では大気によって天体が常に揺らされる「常時自由振動」が観測できるのではないかと考えています。地球では、この現象が日本人の研究グループにより発見され、研究が進められました。火星の大気は希薄ですが高速で運動し、天体が小さく表面の凹凸も大きいので意外と大気で揺らされやすく、ある試算では地球と同程度の常時自由振動の大きさであるとされています。地上の最高性能の地震計で観測できれば、火星の常時自由振動を捉えられそうです。

試作地震計の性能〜一歩ずつ前進

 月・惑星探査用の地震計として、火星常時自由振動を測定できる性能のものを開発目標としました。月や火星で観測するためには、ロケットの打上げや着陸の振動(数十G)、温度環境(マイナス50℃〜プラス50℃)、放射線に耐えるものでなければなりません。さらに、大きさ・重量・消費電力の厳しい制約があります。従来の地震計の方式を使うことはできず、条件を満たすものを新たにつくり上げる必要があります。図2にこれまでの試作品の写真を示しました。図2(a)は1号機で、周期の長い微小な振動をどこまで測れるかという検出性能重視で設計したものです。広帯域地震計は振り子の動きをセンサーで測り、その動きを打ち消すように振り子に制御を行い、制御した信号から地面の動きを求めるという原理です。長周期の振動を捉えるためには周期の長い振り子が必要です。微小な振り子の動きを測定できて温度変化や放射線に強いレーザー干渉計をセンサーとして用いました。この試作品は、検出性能ではほぼ目標通りにできました。

図2
図2 試作した地震計


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