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宇宙科学の最前線

次世代の宇宙輸送はハイブリッドロケットで! 宇宙飛翔工学研究系 教授 嶋田 徹

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 燃料後退速度向上のための第二の方法は、GAP(グリシジル・アジド・ポリマー)系やWAX燃料を用いることです。GAPを従来型燃料に混ぜることで、GAPの自己発熱分解の効果により燃料後退速度を高くすることができます。またWAX燃料の場合、表面で溶融した燃料が液滴になって流れに巻き込まれて飛散する現象が起き、熱の効果に力学的効果が加わることで燃料後退速度が高くなります。

 HRrWGでは、WAX燃料に酸化剤を旋回噴射することによって、従来のハイブリッドロケットに比べて1桁高い後退速度が得られることを確認しました。また、多断面旋回の手法によって、さらに高い後退速度の可能性も確認しています。しかし、燃料後退速度を高めるだけではロケットとして十分ではありません。同時に燃料を効率よく燃焼させる必要があります。その目的で、HRrWGでは図5に示すようなバッフル板を考案し、燃焼気体特性から理論的に決まる排気速度(特性排気速度)に対して95%以上の効率が得られることを確認しています。

図5
図5 バッフル板を用いたエンジン模式図とWAX燃料の燃焼の様子
WAX燃料は加熱されると表面で液化し主流に液滴として巻き込まれる。液滴は気化して燃える一方で、滞留時間が短いと未燃のまま放出される。その対策としてバッフル板により液滴の微粒化を促進し、燃焼効率の向上に成功。また、液滴が巻き込まれる様子を世界で初めて可視化することに成功した。(東海大学 那賀川研究室/ハイブリッドロケット研究WGにおいて実施)


おわりに

 ハイブリッドロケットは、安全・安心、環境・エコ、高性能と高機能などの長所を持ち、将来の有人宇宙輸送や低コスト物資輸送の社会ニーズに応えられる新たなロケットです。国内大学と宇宙研の研究者がつくるHRrWGでは、鍵となる境界層燃焼の理解を進めるとともに、現実のロケットに必要な燃料後退速度と燃焼効率を向上させる技術の実証に取り組んでいます。現在、その第一歩として5kN級の技術実証用試験設備とエンジン(HTE-5-1)を製作中であり、今後その試験についても報告したいと思っています。

(しまだ・とおる)



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