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宇宙科学の最前線

次世代の宇宙輸送はハイブリッドロケットで! 宇宙飛翔工学研究系 教授 嶋田 徹

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燃料後退速度の重要性

 単位質量の固体燃料が単位時間に気化する量は、燃料が気化温度にまで上昇するのに要する熱と、燃料物質の気化熱(潜熱)と、外部から単位時間当たりに加える熱量によって決まります。単位時間に単位表面積から発生する燃料気体の質量を固体燃料の密度で割ると、局所的な燃料後退速度が得られます。

 燃料後退速度は上記の理由で、外部から加えられる熱が大きいほど大きくなることが分かります。この熱は火炎から対流や輻射によって伝わってくるので、火炎が燃料表面に近ければ近いほど単位時間・単位面積当たりに伝わる熱量が大きくなります。固体推進剤や液体推進剤の場合は、火炎と燃料との距離が数十μm程度と考えられますが、ハイブリッドロケットのような境界層燃焼の場合は、その程度が数mm程度あると考えられます。このため、燃料へ伝達される熱量が小さくなってしまうことは否めません。

 料後退速度が小さいことがロケットの設計に及ぼす影響はいろいろあります。困った点としては、図1のような単純円筒形状の燃料を用いた場合、燃料の縦横比が燃料後退速度に逆比例するということです。すなわち燃料後退速度が小さくなると、縦横比が大きくなり、細長いロケットになります。この場合、燃料の体積充填率も低くなり、構造重量的にも効率の悪いロケットになります。一例を挙げると、固体推進剤を用いているS-520観測ロケット規模を想定した場合、これを燃料後退速度1mm/sのハイブリッドで代行すると、初期の燃料内孔直径が30cmのとき燃料の縦横比は約40になると試算されます。S-520ロケットの縦横比が約10であることを考えると、これは大き過ぎるといわざるを得ません。

 この不都合をある程度克服する方法として、燃料に複数の穴を開けて燃料表面積を増やすマルチポートという手法があります。2004年に有人で高度100km到達を連続2回成功させたSpaceShipOneのハイブリッドロケットで採用されています。しかし、マルチポートの場合、燃料の燃え残りが生じやすく、設計が難しい点が指摘されています。この問題を根本から解決するためには、燃料後退速度を高くすることが重要です。

燃料後退速度と燃焼効率の向上

 図3に、これまでに内外で得られた燃料後退速度のデータを酸化剤の質量流束(単位面積・単位時間当たりに流れる質量)に対してプロットしたグラフを示しました。ここでHRrWGでは、燃料後退速度を向上させるために、大別して2つの方法に取り組んでいます。第一の方法は酸化剤流を旋回させることで、遠心力の効果により火炎を燃料表面に近づけることです。火炎が燃料表面に近づくことによって、軸流噴射に比べて燃料後退速度を3〜4倍高くすることができます。図4に示すように、酸化剤流旋回型の燃焼室の中で火炎は表面近傍に形成されていることが分かります。酸化剤に液体酸素を用いる場合は、液体酸素をインジェクタ上流で気化することで、旋回流の効果を発揮させることができます。その目的で、HRrWGでは表紙に示すように、液体酸素を気化させるための再生冷却方式のノズルの開発研究を行っています。

図3
図3 燃料後退速度の向上成果(酸化剤:気体酸素)


図4
図4 酸化剤流旋回型ハイブリッドロケットエンジン内の燃焼の可視化
上図の燃焼室内を横から撮影した写真からは、らせん状に旋回しながら燃焼している様子が分かる。下図の前方から撮影した写真(中心の円はノズルスロート孔を示す)からは、旋回流によって火炎が燃料表面近傍に形成されている様子が分かる。また、燃料がPMMA(アクリル樹脂)の場合はPP(ポリプロピレン)の場合より火炎帯が薄くなっていることが分かる。(首都大学東京 湯浅研究室/ハイブリッドロケット研究WGにおいて実施)


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