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宇宙科学の最前線

超小型衛星の挑戦 宇宙科学の大変革を目指して 宇宙構造・材料工学研究系 教授 松永 三郎

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超小型衛星とは

 超小型衛星とは、主に全質量100kg未満、特にここでは50kg以下の人工衛星を想定している。その超小型衛星の研究開発が、全世界において驚異的な勢いで活発に進められている。日本でも、ここ十数年の間に、東京大学と東京工業大学の各研究室において、数百gのカンサットから出発して1kg級キューブサットの世界初軌道上実証に成功した。その後、それらの活動は大きなうねりとなった。多くの大学や高等専門学校の新進気鋭の若者たちが超小型衛星の世界に参入するに至った今、宇宙工学において新しい分野が開拓されている。

 衛星ミッションの企画、解析、設計、製作、試験、打上げ作業、運用、文書作成、管理、各種国際調整・契約を実施し、宇宙環境において実際に稼働する宇宙システムを研究開発する。その活動は教育だけにとどまるものでなく、超小型衛星を用いた最先端技術や理学ミッションの早期実証へと大きく育ってきている。見方を変えれば、サイズが小さくなったおかげでミッションの柔軟性や多様性が増し、教育として使用できるようになったともいえる。一方で、小型故の技術的に大変厳しい制約があるが、だからこそ、宇宙という現場で新しい研究課題を実践的に発見・追究して解決する鍛錬の場が開かれているのである。

 すなわち、従来の宇宙開発では、宇宙科学研究といえども宇宙での実証機会を得るには巨額の予算を必要とするが、サイズを特化することで、研究室規模においても宇宙開発に貢献できることに大きな意義がある。しかも、日本がその中心国として重要な役割を果たしている。それらの活動が内外から認識され、ここ数年間、超小型衛星の研究開発に重点的に予算が投入されている。オールジャパン体制を築き画期的成果へと結実させることで、世界をリードし、社会に貢献することが期待されている。

これまでの超小型衛星

 さて、上記の具体例を示すために、東工大理工学研究科機械宇宙システム専攻の松永研究室を中心として行われてきた超小型衛星に関連する活動を列挙し、いくつか簡単に紹介する。
(1) CUTE-I:世界最小の1kg衛星の開発。2003年6月30日、ロシアのロコットロケットにて打上げ。8年を超えて、運用中。
(2) Cute-1.7+APD:理工共同開発。2006年2月22日、M-X型ロケット8号機で打上げ、運用成功。2009年10月、大気圏再突入。
(3) 3kg級Cute-1.7+APDU:理工共同開発。2008年4月28日、インドのPSLVロケットで打上げ。3年を超えて、運用中。
(4) 超小型衛星用地上管制局システムの研究開発
(5) 超小型衛星用分離機構の研究開発:4回の軌道上実証。上記の3回、およびTSD(Titech Satellite Deployor)として2005年7月10日、M-X型ロケット6号機にて打上げ実証。
(6) 小型ソーラー電力セイル実証機IKAROS用小型分離カメラ:分離機構の設計協力、組み立て試験、分離解析、システム統合。2010年6月に軌道上にて膜面を含むIKAROSの全体撮影に成功。
(7) 50kg級先端技術実証・偏光X線観測衛星TSUBAME:現在、研究開発中。2012年12月打上げ予定。


図1
図1 CUTE-I
世界発のキューブサット


 図1は、世界最小1kg、1辺10cm角のキューブサットCUTE-Iである。当時の超小型衛星と位置付けられていた50kg、1辺50cm角のマイクロ衛星と比較して、質量で50分の1、体積で125分の1と、2桁レベルでの削減を要する画期的な衛星である。超小型衛星は、ミッションを絞り込んで質量をより小さくする一方で、宇宙で稼働すべき宇宙システムとしての特徴を持つ必要もある。衛星にとって本当に必要な技術は何か、という本質を追究したのがキューブサットといえる。この成功で、今まで宇宙関連に興味を持ちながら手をこまねいていた人に、衛星を自ら開発し、ロケットで打ち上げて運用する道筋を示した。CUTE-Iは、8年を超えた現在でも運用継続中である。

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