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宇宙科学の最前線

超小型衛星の挑戦 宇宙科学の大変革を目指して 宇宙構造・材料工学研究系 教授 松永 三郎

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50kg級衛星TSUBAMEを開発中

図5
図5 50kg級衛星TSUBAME


図6
図6 TSUBAMEの環境試験の様子 振動試験中(左)と熱真空試験直前(右)


 現在、宇宙研の松永研では、東工大の河合研、東京理科大学の木村研と共同で、図5に示すような50kg級の地球・天体観測衛星TSUBAMEを研究開発中である。宇宙開闢の謎に関わる突発的なガンマ線バースト現象の観測(ガンマ線検出器・X線偏光検出器:河合研)、および可視光カメラを用いた地球観測(小型光学カメラ:木村研)を実施するために、コントロールモーメントジャイロ(CMG)を用いた高速度姿勢変更と高精度指向制御の両立を図る超小型衛星の開発を目指している。特に、CMGシステムを世界最小級・省電力、しかも高出力トルクを発生できる超小型姿勢制御用アクチュエータとして実現するために、多摩川精機(株)と共同開発中である。また、電力は100W級と、その質量・大きさと比較して高出力のため、高度なバス技術を要求されており、大変挑戦的な衛星である。現在、フライトモデルを開発中であり、2012年12月ごろに打上げを予定している。図6は環境試験の様子である。

超小型衛星の大きな可能性

 超小型衛星を研究開発する意義は、主に次の点が挙げられる。
(1) 挑戦的宇宙システム工学の実践的教育・人材育成
(2) 部品・機器レベルの先端技術の早期宇宙実証。TRL(技術成熟度)を飛躍的に上げることができる有効な戦法
(3) 超小型衛星(群)による科学ミッションや実利用ミッションの実施
(4) 新しい宇宙工学や高付加価値ビジネス分野の発掘・開拓


 これらの根拠は、超小型衛星が失敗できる程度の規模であることがポイントである。もちろん、わざと失敗してもよいという意味ではない。人工衛星は、一発勝負の打上げを経て、じかに手を入れることができない状態で運用しなければならないので、絶対に成功するよう最大限の真剣な努力をする。しかし、それでも漏れ出てきた不具合により失敗に至ったとしても許容できる予算内で実行することが可能、という意味である。

 すなわち、大型衛星の失敗のように、大きな痛手を受けて分野全体が停止させられる社会風潮から一線を画すことができるし、またそのように理解してもらう必要がある。なぜなら、周知のように、失敗からこそ本当の意味での知見が得られるからである。従来の大型宇宙開発では失敗への許容が非常に狭いことを、あえて説明する必要はあるまい。

 実は、研究室レベルでのアップサイズ設計思想に基づいた開発で運用に成功した超小型衛星の例は、日本では数kgまでである。50kg級では、国の機関や宇宙メーカーの中型・大型衛星のノウハウを利用したダウンサイズ設計思想の衛星がいくつか成功してきている。今年以降、東大の35kg級衛星、我々の50kg級衛星などが、アップサイズ設計思想に基づいた開発の成功を目指し、挑戦する。

 大きさが同じでも、ミッション次第で難易度はまったく変わる。それは、飛行機でいえばプロペラ機かジェット機かと問われているのと同じようなもので、研究室レベルから発するアップサイズ設計思想でどこまでいけるか、ダウンサイズ設計思想でないといけないのか、その境界はいったいどこか、どう進化していくのか、という大きな課題がある。

 超小型衛星を用いることで、真の意味での宇宙システム工学の深化・体系化が可能になり、宇宙工学における実践的な問題発見・解決および得られた知見の汎用化を促すことが期待できる。日本でも1年に5機以上の超小型衛星が定常的に打ち上げられる日は近い。そのときには、宇宙科学に大変革がもたらされるであろう。

(まつなが・さぶろう)


参考文献:「キューブサット あなたも飛ばせる人工衛星」日経サイエンス,2011年9月号
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