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宇宙科学の最前線

データ公開サービス「AKARI Catalogue Archive Server」の開発・公開 宇宙科学情報解析研究系 宇宙航空プロジェクト研究員 山内 千里

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超便利なAKARI-CASの新ツール

 すでに述べた、あらかじめ登録されたカタログ同士の「マッチアップ」やSQLの直接入力も、一般にはあまり提供されない機能ですが、AKARI-CASには諸外国のサービスにはない画期的なツールとして「Match-up AKARI catalogues with Cached SIMBAD/NED catalogs」がありますので、ここで紹介しておきましょう。

 このツールは2010年6月に新たに追加されたもので、これを使うと「あかり」カタログの天体情報と、これまでに公開された膨大な天体カタログの中で対応する天体情報とを瞬時に結合し、その結果を取得することができます。

 例えば、「メシエ天体カタログ」をご存知の方は多いと思いますが、「あかり」カタログにはメシエ天体はいくつ存在するのでしょうか? これを調べる場合、一般的には、まずメシエ天体のリストを用意し、それを公開サービスの何からのツール(AKARI-CASではCross IDツール)にアップロードするという手順が必要ですが、AKARI-CASのこの新しいツールを使うと、入力欄に「M %」と入力するだけで瞬時にその結果を取得できます。メシエカタログは110番までしかありませんから、自分でリストを用意するやり方でもそれほど手間ではありませんが、2MASS※1カタログやSDSS※2カタログのように億単位の天体を含む場合、それは「すぐに」とはいきません。このような巨大なカタログであっても、この新しいツールでは「2MASS %」「SDSS %」と入力するだけで瞬時に検索できます。

 さらに、このツールを使って、天体の種別(銀河か星か、など)で「あかり」カタログを検索できます。天体種別によるカタログ検索は多くの研究において必要となるものの、「あかり」カタログ自体にはその情報は入っていませんから、このツールはその点でも価値が高いといえます。

 従来、このような他カタログとのマッチアップや天体種別の情報の付加は、個々の研究者の「いつもの大変な作業」として行われることが多かったのですが、この新しいツールによってその部分が相当に省力化でき、研究者は従来よりも効率よく研究ができるようになるというわけです。

 ところで、以下は数ヶ月前に実際あったお話です。たまたま宇宙研に来ていたある研究者に、このツールの話をしたところ、その彼は「おおっ! この入力欄に×××と入れるだけで僕のやりたいことがすぐにできる!!」と、ピンと来ていました。開発者と情報交換することで有利に研究が進むというのは、こういうことなのです。Webサーバのログを見ると、最近になってようやく外国の研究者もこのツールの存在に気付いてきたようです。


より完成度の高いサービスへ

 現在、「あかり」全天サーベイの画像データは、一般には公開されていません。AKARI-CASの画像閲覧ツールでも「あかり」による画像は見ることができないという寂しい状態であり、「絵はいつ出るのか」という問い合わせもたびたびいただいています。

 以前から「あかり」チームでは、高品質な全天サーベイの画像データを作成するためのプロジェクトが走っています。現在、かなりの完成度に達しており、1〜2年以内には公開できるのではないかと見られています。カタログのバージョンアップも準備が進んでおり、新バージョンではより詳細な解析も可能になる予定です。

 カタログに加えスキャン密度の情報と画像データがAKARI-CASで利用できるようになれば、いっそうサービスとしての完成度が高まりますし、カタログと画像データの両方を活用することで、新たな研究が可能になります。今後の「あかり」の新データリリースと、我々のデータ公開サービスの充実にご期待ください。


結び

 「データ公開サービス開発の重要性」で述べましたが、AKARI-CASのようなサービスを開発し、効率よく研究できる環境を研究者に提供していくことは、我々「データ処理のプロ」にとって最も重要な研究テーマの一つです。宇宙研のデータセンターであるC-SODAでは、そのようなデータ公開サービスの開発とともに、アーカイブの整備やサポート体制をより充実させることで、宇宙科学に関する研究者を強力にバックアップできるようになればと思っています。

 我々のこのようなサービスの開発・公開を通じて、日本でもデータ利用環境の整備の重要さが認知され、宇宙科学分野全体の研究・開発において日本がさらに成熟していくことを願っています。

(やまうち・ちさと)


※1 2MASS(Two Micron All Sky Survey)
口径1.3m地上望遠鏡による近赤外での全天サーベイプロジェクト。2MASSの天体カタログは約4億7000万の天体を含む。

※2 SDSS(Sloan Digital Sky Survey)
口径2.5m地上望遠鏡による可視光でのサーベイプロジェクト。DR7(7番目のデータリリース)による天体カタログは3億5000万を超える天体を含む。



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