宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > データ公開サービス「AKARI Catalogue Archive Server」の開発・公開

宇宙科学の最前線

データ公開サービス「AKARI Catalogue Archive Server」の開発・公開 宇宙科学情報解析研究系 宇宙航空プロジェクト研究員 山内 千里

│2│

カタログのデータ公開サービスとは、どういうものか?

 天体カタログというものは、カラムとして天体の座標、天体の明るさ、さまざまな観測情報などを持ち、天体(星や銀河)の数だけの行数を持つ「1つの表」として公開されるのが一般的です。「あかり」カタログの場合は、2つのカタログ(表)からなり、遠赤外(FIS)カタログで約43万、中間赤外(IRC)カタログで約87万の行数があります。ほかの大規模サーベイプロジェクトの場合、数億行に達するカタログがつくられることもあります。

 研究によっては、このような大規模なカタログのほとんどすべてを解析に利用することもありますが、多くの場合はある条件で研究対象となる天体を抜き出し、それらについて解析が行われます。従って、サービスとして必要な機能としては「検索」が主であり、そこに高速動作と柔軟性が求められます。

 最近の計算機は非常に高性能ですから、「あかり」のIRCカタログ(約87万天体)ですら、何らかの条件で1つだけ天体を探すのであれば、上から下に順に探しても1秒くらいで終わると思います。しかし天文学では、天球面上の座標(経度・緯度)で、1万とか10万の天体を検索したいということもよくあり、その場合1ヶ所に1秒だと、数時間から丸一日以上かかってしまいます。

 そのような検索は、AKARI-CASを使うと、1件あたり数千分の1秒〜数万分の1秒で可能になります。よく利用される検索として「FISカタログとIRCカタログとのマッチアップ」がありますが、この場合にも高速検索性能は威力を発揮します。ここでいう「マッチアップ」とは、FISカタログの約43万の天体すべてについてIRCカタログの対応する天体を検索することを指しますが、AKARI-CASで行えばそれに30秒を要しません。このような高速検索性能は、我々データ処理のプロとしての腕の見せどころでもあります(AKARI-CASの計算機が超高性能、というわけではないのです)。

 AKARI-CASでは、このようないくつかの座標による検索に加え、より高度な検索のニーズに応えるため、データベース用言語(SQL)の直接入力もサポートしています。これは一般にはかなり珍しい検索機能なのですが、柔軟性の高さが評判を呼び、若手を中心に利用者が増えてきています。さらに、検索した結果について、天体の画像を閲覧したい、あるいは世界各国のデータ公開サービスでその天体について調べたいということもあります。AKARI-CASでは、検索した天体についての画像と、ほかのデータ公開サービスへのリンクも提供しています。

 このように、天体カタログの公開サービスというものは、座標検索機能にさまざまな付加的機能を持たせて、幅広い研究テーマに対応できるように開発します。各国のカタログのためのデータ公開サービスでも、座標検索がサービスの基本で、それ以外の部分でそれぞれの特色を出しています。当然、「あかり」カタログは誰でもダウンロードできますから、そのような諸外国のデータ公開サービスにも登録されます。従って、AKARI-CASはそれらと競合することになります。基本的機能では使いやすさを競い、さらに独自の付加価値の高い機能を開発して優位に立つことが必要になってきます。


図1
図1 AKARI Catalogue Archive Server
「あかり」カタログを使ったさまざまな研究に応えるべく、諸外国レベルの本格的な検索ツール、画像閲覧ツール、ドキュメントを備えている。


│2│