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宇宙科学の最前線

使いやすく将来性のある無毒液体推進系〜宇宙輸送の新時代を切り拓く〜

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 これらの実験を通して、N2O/エタノール推進系の運用とエンジン設計について必要な情報が得られました。現在、次期固体ロケットシステムに搭載する液体キックステージをイメージしたシステム技術実証モデルの設計検討を行っています(図3)。この実証モデルの地上燃焼試験は、2003年度から始めた基礎実験の仕上げと位置付けていて、提案が認められれば2007年度中に実施したい考えです。


図3
図3  N2O/エタノール推進系技術実証モデルの概案図


実用化へ向けて(実践教育/宇宙輸送)

 ここまでの反省点を。「学生の教育に使える安全な液体推進系」の構築が第一の目的だったはずなのですが、いまだこの機会を学生教育に活用できていません。言い訳の一つは、まずは実用可能な推進系を構築できるかどうか実証することを急いだからです。JAXA宇宙科学研究本部において実践的な宇宙工学教育の教材とする以上、まずは実際に飛ばすことができて、宇宙輸送系の開発や実際の輸送に役立つものにしたい。とはいっても、本研究に参加している平均年齢30代前半の若手から中堅の職員(八木下剛くん、鈴木直洋くん、羽生宏人くん、私)にとっては、貯蔵性(一部低温)液体ロケットエンジンに対する理解を深める上で大変貴重な機会となっているので、すでに「プロの技術者のための実践的宇宙工学教育」に役立っているといえるでしょう。


図4
図4  再使用輸送系開発への応用(帰還軌道への投入など)

 この取り組みを始めてから5年が経過して、具体的なターゲットに幅が出てきました。究極の将来輸送系開発に役立てようというモチベーション(参考文献3)に加え、そのまま近い将来の宇宙輸送系に使うという機運が高まりつつあります。まず、上述のJAXA次期固体ロケットシステム。次にアメリカを中心に盛り上がりつつある有人宇宙探査機計画。有人システムの開発においては、推進剤の無毒化が優先順位の高い課題として取り上げられています。N2O/エタノール推進系は、無毒化だけでなく貯蔵性、低温環境適合性、さらに発展性においても優れているので、役立つ可能性が十分にあると考えています。すでに、有人宇宙技術として発展させるための課題の抽出と方策についても考え始めているのです。さらに次世代の再使用輸送系開発においては、軌道制御のための貯蔵性液体推進システムOMSとして活用できるでしょう(図4)。

 当面の目標は、5年間の基礎研究の成果を踏まえて、次の5年以内にフライトモデルを開発すること。その過程を利用して実践的な宇宙工学教育を実行すること。そして、無毒の貯蔵性液体推進系の飛翔実験を世界に先駆けて行いたい。皆さん、きっと応援してくれますよね。

(とくどめ・しんいちろう)



参考文献
(1) Deluga,G.A.,Salge,J.R., Schmidt,L.D.,and Verykios, X. E.,“Renewable Hydrogen from Ethanol by Autothermal Reforming”, SCIENCE, Vol. 303, pp.993-997(2004)
(2) 八木下剛・徳留真一郎・羽生宏人・鈴木直洋・徳永好志・安田誠一・嶋田徹・大毛康弘「N2O/エタノール推進系の試作試験:2F14」宇宙科学技術連合講演会(第50回)、日本航空宇宙学会(2006)
(3) 徳留真一郎・羽生宏人・川口淳一郎・大塚浩仁・山本高行「空気吸込みエンジンFTBシステムの提案」宇宙科学シンポジウム(第5回)、JAXA宇宙科学研究本部、pp.400-403(2005)



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