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宇宙科学の最前線

 使いやすく将来性のある無毒液体推進系〜宇宙輸送の新時代を切り拓く〜


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推進系の実証研究

 推進系については、2003年度からJAXA宇宙科学研究本部の戦略的開発研究理工学実験分野「先進的推進系の研究」の中の1テーマ「N2O/エタノール推進系の研究」として取り組んでいます。まずは本格的なエンジンを設計するための基礎データを集めるため、2004年9月と2006年3月に能代多目的実験場において、推力700N級の実験装置を使った燃焼実験を2シリーズ、計14回行いました(参考文献2)(図1)。それらの実験では、エンジンで最も重要な噴射器(推進剤を燃焼室内に噴射する部分)および最も過酷な環境にさらされる燃焼器を設計するためのデータを集めながら、推進剤の充てんから燃焼までの運用にかかわる課題を整理しました。


図2
図1 推力700N級供試体による燃焼試験

 N2Oは、常温の20℃で約5MPaの蒸気圧があるため、タンクから噴射器までの配管の中で圧力が下がっていく間に沸騰することがあります。私たちの実験装置でエンジンの燃焼をスムーズに開始させるには、点火前に少し流して気化冷却で配管を冷やす必要がありました。その密度は常温で約0.8g/cc、凝固点近くになると50%ほど高い約1.2g/ccまで上昇するため、密度を高めてタンクの容積を小さくしたい場合や燃焼室の圧力が低くてタンクの圧力も下げたい場合には、−90〜−80℃程度の低温で扱う方が有利です。その温度条件下での燃焼性能と運用性も調べました。広範な燃焼条件で行った2シリーズの実験の結果、特殊な耐熱材を使わなくても噴射器を設計できること、軽量な耐熱複合材料を使った燃焼器を使える可能性があることが分かり、実証研究は本格的なエンジンの製作へ向けて大きく前進しました。


図2
図2  触媒分解式点火器の基礎実験

 N2Oを分解したときに発生する高温のガスを利用した点火器や姿勢制御用スラスタの研究も進めています。効率よく分解するため、ほかの用途で開発されたほぼ100%の分解効率を誇る触媒の可能性を試しています。N2Oは極めて安定した物質なので素早く分解するのは難しいのですが、何とか実用化できそうな感触を得ています(図2)。



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