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宇宙科学の最前線

X線分光観測で探る激変星の物理

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強磁場激変星AE Aquarii(みずがめ座AE星)

 白色矮星が10テスラ以上の磁場を持つ場合,伴星からの物質は途中で円盤を離れ,磁力線に沿って磁極に集中的に降着します。X線は白色矮星の自転で見え隠れする磁極領域から放射されるので,X線強度は自転周期に同期して変動します。このような激変星を「強磁場激変星」と呼んでいます。

 強磁場激変星AE Aqrからは,可視光の観測で33.08秒の自転周期が見つかっています。これは強磁場激変星の中では最速であり,赤道での回転速度は,そこでのケプラー速度の実に35%にも達します。X線強度はこの周期で変動していたため,AE Aqrは長い間,普通に質量降着をしている強磁場激変星と考えられてきました。ただし,ほかの強磁場激変星ではX線を放射しているプラズマの温度が2億度を超えるのにAE Aqrでは3000万度程度と低い,数時間おきに電波からX線に至る波長帯で同期したフレアを起こす,フレア中にはX線強度が数倍にも達するのに奇妙なことにX線パルスの振幅がまったくといっていいほど変わらない,さらにはTeVのエネルギーを持つγ線が観測されるなど,ほかの激変星には見られない特異的な振る舞いを示すことで特別視されていました。



図3
図4 (左列)XMM-NewtonのRGSで得られたAE Aqrの窒素,酸素,ネオンの輝線スペクトル,(中列)観測時と同じ温度条件で密度が十分低いときに期待される輝線のスペクトル,(右列)プラズマ密度と輝線強度比の関係。


 AE Aqrの特異性の原因究明は,我々が行ったXMM-NewtonのX線分光データの解析で大きく進展しました。XMM-NewtonにはCCDよりもエネルギー分解のよい反射型の回折格子が搭載されており,図4に示す通り,窒素,酸素,ネオンのヘリウム様イオンからの特性X線を三つの成分に分光することができます。このうちの2成分の相対強度から,プラズマの密度を知ることができます。そしてその密度の情報と,3成分の絶対的な明るさから,プラズマが連星軌道スケールに広がっていることが分かりました。つまり,AE AqrからのX線は磁極からではなく磁気圏の辺りから放射されており,伴星からの降着物質は白色矮星の速い自転のために,白色矮星へ降着することなく連星系外へ吹き飛ばされていると考えられるのです。

 それでは,自転周期に同期したX線の強度変動の起源は何なのでしょうか? AE Aqrは発見以来,年におよそ1.8マイクロ秒の割合で自転周期が遅くなっています。我々は,AE Aqrはこの減速エネルギーを使って光っている,電波パルサーの白色矮星版ではないかと考えています。実際,「すざく」の硬X線検出器による観測で,激変星からは初めて非熱的なパルス成分の端緒が見え始めています。

 AE Aqrからの非熱的X線パルスの検出には大きな意味があります。10秒程度の周期で自転する磁場を持った白色矮星は,1014-15eV程度までの粒子加速能力を持ちます。白色矮星は銀河系の中でごくありふれた星であり,あまり知られていませんが太陽系近傍では星の三つに一つは白色矮星です。もしAE Aqrをはじめとする高速回転の白色矮星から非熱的パルスが検出されるようになれば,白色矮星が高エネルギー宇宙線の加速源として大きくクローズアップされるようになると考えられます。

(いしだ・まなぶ)



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